巨大飛行機からのロケット発射を目指している米国企業「ストラトローンチ・システムズ」が、新型ロケットの開発計画を中止したことがわかった。Aviation WeekやGeekWireなどが伝えた。

同社はマイクロソフトの共同創業者のひとり、ポール・アレン氏らによって設立された企業。しかし、2018年10月に同氏が亡くなったことから、その動向が注目されていた。

ただ同社によると、飛行機の開発や試験、他社製の「ペガサス」ロケットを購入して発射する計画は継続するという。

  • ストラトローンチの巨大飛行機

    ストラトローンチの巨大飛行機と、そこから発射されるロケットたち。今回、下に並ぶロケットのうち、右側3つの機体が開発中止となった (C) Stratolaunch Systems

ストラトローンチ・システムズ

ストラトローンチ・システムズ(Stratolaunch Systems)は、マイクロソフトの共同創業者のひとりとして知られる、実業家のポール・アレン氏らによって、2011年に設立された航空宇宙企業である。

同社は、世界最大級の大きさをもつ巨大飛行機を開発していることで有名である。「ロック(Roc)」という愛称で呼ばれるその飛行機は、長さ117mもの主翼をもつ。同じく巨大飛行機として知られるウクライナのAn-225「ムリーヤ」の主翼は88.4mなので、ストラトローンチはそれを大きく超える。ちなみに歴史を振り返れば、1947年に米国の実業家ハワード・ヒューズが開発したH-4「ハーキュリーズ」が97.5mという記録をもっているが、それすらも超える。

ただ、胴体の全長は73mであり、ムリーヤの84mより短い。そのため厳密に言えば、「世界最大級の飛行機」、もしくは「世界最大の飛行機のひとつ」と呼ぶのが正しい。ちなみにロックという名前は、中東・インド洋地域の伝説に登場する巨大な鳥から名付けられた。

ロックの離陸時の質量は約600t。これほど巨大で重い機体を飛ばすため、ボーイング747や777などに使われているプラット&ホイットニー製のPW4056エンジンを6基も装備している。

さらに、その大きさもさることながら、胴体が2つあるような「双胴機」と呼ばれる、その変わった形もひときわ目を引く。設計、開発を手がけたのは、スケールド・コンポジッツという米国の航空機メーカーで、同社は創業者でもある著名な航空機設計者バート・ルータン氏の下、数々の奇抜で優れた航空機を生み出してきたことで知られる。ロックの形状もまた、彼らなりの理にかなったものなのだろう。

ロックは2017年5月にロールアウトし、同年12月には低速のタキシング試験を実施。2018年に入ってからも徐々にスピードを上げて試験が続き、2019年1月11日には高速タキシング試験にも成功している。

  • 巨大飛行機ロック

    ロールアウトしたストラトローンチの巨大飛行機ロック。人と比べるとその大きさがわかる (C) Stratolaunch Systems

ロケットの空中発射母機

同社ではこのロックを使い、空中からロケットを発射し、人工衛星を打ち上げることを目指している。

空中発射ロケットは、通常の地上から発射するロケットと比べ、いくつかの利点がある。たとえば、上空は大気がやや薄くなるため、ロケットを効率よく飛ばすことができる(言い換えれば効率のいい設計のロケットを飛ばすことができる)。つまり、同じ性能のロケットでも、空中から飛ばすことで、より重い衛星を飛ばしたり、あるいは同じ重さの衛星をより小型のロケットで打ち上げたりできるようになる(ちなみに、飛行機の速さは、衛星を軌道に乗せるために必要な速度と比べるとはるかに遅いため、速度面でのアシストはあまりない)。

また、地上に発射台を造る必要がないため、建設費や運用費を抑えることができる。ロケットの打ち上げごとに発射台を整備する必要もないため、打ち上げの頻度も増やせる余地がある。ロケットは天候に弱いが、飛行機が飛び立てる天候であれば発射できるため、天候に比較的強く、遅れも起きにくくなる。

さらに、地上から発射する場合、人家などを避けるように飛ばす必要があり、迂回することでロケットの打ち上げ能力が落ちたり、あるいはそもそも打ち上げられない方角が生まれたりする。しかし空中発射であれば、基本的にはどの角度へも打てるため、打ち上げの自由度、柔軟性が上がる。

こうしたことから、ストラトローンチでは、打ち上げ日、軌道の高度や傾斜角などに制約がないという「柔軟性」、地上発射でよくある遅延を防げるという「信頼性」、そして頻繁な打ち上げが可能な「利便性」といった点で優れているとという点で、他より優れているとしている。

同社は当初、いまをときめく宇宙企業スペースXと組み、同社の大型ロケット「ファルコン9」を改造したロケットを発射することを検討していた。しかし、ファルコン9を空中発射用に改造することが難しかったことから頓挫した。

次にストラトローンチは、オービタルATK(現ノースロップ・グラマン)に接近。同社が製造する固体ロケットに、エアロジェット・ロケットダインの「RL10」エンジンを上段にした2段式ロケット「サンダーボルト(Thunderbolt)」を開発し、それを空中発射する計画を立てた。しかしこれも頓挫し、2016年にはオービタルATKが運用している空中発射ロケット「ペガサス」を使うことを決定した。ペガサスは、L-1011「トライスター」などから発射している小型ロケットで、1990年に初飛行を行い、これまでに35機以上が成功している。

ストラトローンチはまた、ロックの巨大さを活かして、このペガサスを一度に3機発射するという構想も打ち出した。近年、小型衛星がブームで、世界中でさまざまな企業が開発しているが、衛星によって投入したい軌道が異なることがある。そこでストラトローンチを使うことで、一度の発射機会で、複数の衛星をそれぞれ異なる軌道に投入できるという点が売りとされた。

初の試験発射は2019年に行うとし、2020年から運用を始めるとしていた。この計画は現在も変わっていない。

  • ストラトローンチの想像図

    ペガサスを3機搭載して発射するストラトローンチの想像図 (C) Stratolaunch Systems