2018年第3四半期(7~9月期)のDRAM市場は、前四半期比9%増となり、過去最高を記録したと、TrendForceのメモリ調査部門であるDRAMeXchangeが報告した。同社の第3四半期の価格動向調査では、主流のアプリケーションセグメント(PC、サーバ、モバイル)の大口契約価格は同比0〜2%増となり、わずかながらも値上がり傾向を維持する一方で、メインストリームのコンシューマ向けDDR3 DRAMの契約価格が、需要の鈍化から下落傾向に、またグラフィックスDRAMの契約価格も仮想通貨マイニング(採掘)需要の急激な減速により同3%ほどの下落幅を記録し、DRAM市場として峠を迎えつつあると見られる。

過去2年以上にわたり、DRAM価格の上昇が半導体市場全体の成長を支える主な要因となってきたが、第3四半期のDRAM市場の動きは、価格の上昇よりはむしろビット出荷数量の増加によるところが大きい。2018年下半期、DRAMの供給が市場の需要のバランスが取れつつあるため、第3四半期には価格上昇が実質的に止まったほか、第4四半期に至っては、10月に契約価格が下落し始め、四半期を通して下落が継続、これまで2年以上にわたって続いてきた価格上昇が終焉を迎えるとDRAMeXchangeでは予測している。さらに、市場がすでに供給過剰になり、在庫を抱えるようになってきたため、2019年第1四半期にはメモリメーカー、最終製品メーカー、チャネル市場、いずれもが過剰在庫を抱えるため、価格下落はさらに進む見込みだという。

  • 2018年第3四半期のDRAM市場ランキング

    2018年第3四半期のDRAM市場における自社ブランド・サプライヤの売上高ランキング (出所:TrendForce/DRAMeXchange)

唯一2桁成長を遂げたSamsung

DRAM市場の転換期にあたる第3四半期。メモリサプライヤの業績にも、そうした影響が徐々に出始めている。規模が小さい台湾のDRAMサプライヤ各社は、チップ価格低下の影響を真っ先に受け、売り上げが低下した一方で、トップ3のDRAMサプライヤは業績を伸ばした。

Samsung Electronicsは、市場リーダーとして売上高の過去最高記録を更新した。同社のDRAM製品の平均販売価格に大きな変化はなかったものの、生産能力向上によりビット出荷数量が増加した。その結果、同四半期の売上高は前四半期比13.6%増の127億3000万ドルとなり、トップ3の中で唯一となる2桁成長を達成した。

また業界2位のSK Hynixの同四半期における平均販売価格は同1%増と微増であり、売上高も同6%増の81億5000万ドルに留まった。さらに、業界3位のMicron Technologyも、平均販売価格はほぼフラットで、ビット出荷数量の増加で売上高を伸ばし、同6.8%増の59億2000万ドルとなった。

Samsungの粗利益率は脅威の8割越え

上述のとおりDRAMサプライヤ大手3社ともに、同四半期に過去最高の営業利益率を達成した。平均販売価格の上昇は緩やかであったが、従来よりも高度な製造技術を活用することでコスト構造の最適化を図ることで、前四半期からさらに営業利益率を高めることができたという。

ただしSamsungは、第3四半期に導入したばかりの1Y-nmプロセスの歩留まりが低迷したため、トップ3の中で営業利益率の絶対の伸びが最も小さかった。とはいえ、69%(第2四半期)から70%(第3四半期)へ1%増加し、絶対値としての新記録を達成。この結果は、Samsungの売上総利益率(=粗利率)が80%を超えていることを意味している。

業界2位のSK Hynixnは第2四半期の営業利益率63%から第3四半期は、1X-nmプロセスの歩留り向上に成功したことから66%に引き上げることに成功。増加幅は、トップ3の中で最も大きくなった。そして業界3位のMicronの営業利益率は前四半期の60%から第3四半期には1X-nmプロセス採用DRAMの出荷比率が上昇したことに伴い、62%に上昇した。

第4四半期を見据えると、トップ3各社は今後どのような製造コスト削減の努力をしても、価格低下の影響を相殺するのには十分ではないため、もはや業績の記録更新は期待できないとDRAMeXchangeでは見ている。

大手3社の2019年は1Y-nmに注力

トップ3の技術面をついて見てみると、Samsungの2018年の重点計画は、DRAM全体の生産量のうち、1X-nmの生産比率を高く維持することである。その一方で、同社の第17ラインと京畿道華城(ファソン)工場、第18ライン(平澤工場の2階)の増産能力の一部は1Y-nm DRAMの生産に振り向けられている。Samsungは、2018年末までに全DRAM生産量のうち、1X-nmと1Y-nm生産のシェアを合計で70%にまで上昇させることを目指しており、2019年には、1Y-nm製品の生産シェアを引き上げることに注力することにしている。

SK Hynixは2017年末に1X-nmプロセスによるDRAM量産を開始。2018年前半にその歩留まり向上に注力。出荷数量を徐々に増やしている。また同社は、中国無錫に2棟目の300mmウェハファブの建設を進めてきたが、それが2018年末に竣工する。新ファブは、2019年上半期にも同社のDRAMの出荷数量の増加に貢献しはじめる予定だが、米中の貿易紛争に起因する経済的不安のため、すぐに生産能力が満杯まで上昇するとは考えにくい。

そしてMicronの子会社であるMicron Memory Taiwan(旧Rexchip)は、DRAMをすべて1X-nmプロセスで生産する能力をすでに備えている。次のステップとして、Micron Memory Taiwanは1Y-nm生産をスキップし、1Z-nm生産に直接移行する予定である。しかし、1Z-nmプロセスは2020年まで展開準備ができないと予想される。Micronのもう1つの台湾子会社であるMicron Technology Taiwan(旧Inotera)は、2018年第2四半期に20nmプロセスから1X-nmプロセスへの移行を開始したほか、2018年末に向けてIY-nmの技術開発を行い、2019年に1Y-nm生産の生産シェアを徐々に引き上げるとDRAMeXchangeは見ている。

マイナス成長に陥った台湾勢

トップ3以下となる台湾を拠点とするサプライヤは、いずれもが業績を悪化させた。例えば台湾勢トップのNanyaのDRAM売上高は前四半期比3.7%減となる7億9500万ドルと8億ドルを割り込んだ。ただし、同期間の営業利益率は、前四半期の46.8%から51.0%へと上昇させることには成功した。これは、20nmプロセス技術の導入に伴うコスト改善効果によるものである。しかし、現在、同社はDRAMの価格下落に直面しているうえ、生産能力増強にともなう減価償却費を払うことになるため、収益の圧迫が懸念されている。

PowerchipはSLC NANDの生産能力を増強し、DRAMを除く他のIC製品のファウンドリサービス提供に注力したため、第3四半期のDRAM売上高は、同13.3%減の8400万ドルに留まった。とはいえ同社は現在、フラッシュメモリおよびファウンドリの2つの事業がDRAM事業よりも収益性が高いと判断しており、DRAM事業には注力していない模様である。そしてWinbondの第3四半期のDRAM売上高はほぼ横ばいの同0.8%減の1億8800万ドルで、その出荷数量も平均販売価格も安定している状況にあるという。

米中経済摩擦の影響で、中国勢の参戦はさらに遅れる見込みで、台湾勢も弱体化していくため、DRAM業界は2019年も、大手3社による寡占状態が続くが、いよいよ始まったDRAM価格低下の影響を最小化するために各社の戦略が注目される。

なお、中国当局は、大手3社による市場支配力の乱用によるDRAM価格操作に関して独占禁止法違反の調査を進めており、国務院反独占局の呉振国局長は、11月16日の記者会見で、「すでにDRAMサプライヤおよび顧客より多数の書類を入手し、調査は最終段階に入っている。今後、さまざまな討論を重ね、市場の競争公平性を維持し、消費者の利益を確保する」と語っており、場合によっては、中国当局がDRAM大手3社に莫大な課徴金を課す可能性もあることから、今後の調査の進捗が注目されている。