2018年9月2日に放送を開始した『仮面ライダージオウ』は、平成仮面ライダー第20作を記念した作品として、主人公・常磐ソウゴが2000年の『仮面ライダークウガ』から、2017年の『仮面ライダービルド』まで、平成仮面ライダーシリーズ19作品の"時代"をめぐる物語が描かれている。

時間と空間を超越するジオウの登場によって歴代の「平成仮面ライダー」それぞれに、いま改めて注目が集まっている。そして12月22日には、『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』と題されたスペシャルな映画の公開が控えている。そこで、ここからは平成仮面ライダーシリーズ19作品の概要および周辺の出来事を振り返り、『仮面ライダージオウ』に至るまでの20の"時代"の変遷をたどってみることにしたい。

記念すべき「平成仮面ライダー」の第1作となった『仮面ライダークウガ』は、2000年1月30日から2001年1月21日まで、テレビ朝日系で全49話を放映した連続テレビドラマである。EPISODE1「復活」の冒頭では、「この作品を故 石ノ森章太郎先生に捧ぐ」という言葉が添えられており、この2年前(1998年1月28日)に惜しくもこの世を去った仮面ライダーシリーズの原作者・石ノ森章太郎氏への追悼の思いが込められた作品となった。

『クウガ』は、『仮面ライダーBLACK RX』(1988年)以来ひさびさの連続テレビドラマとしての「仮面ライダー」の"復活"作であり、劇場映画『仮面ライダーJ』(1994年)から数えても6年ぶりとなる仮面ライダーシリーズだった。それまでにも「仮面ライダー」が長い中断を経て"復活"を果たした例は二度あった。『仮面ライダーストロンガー』(1975年)から約4年ぶりに放送された、スカイライダーが活躍する『仮面ライダー(新)』(1979年)、そしてお正月のスペシャル番組『10号誕生!仮面ライダー全員集合!!』(1984年)から約3年ぶりのライダーとなった『仮面ライダーBLACK』(1987年)である。

『仮面ライダー(新)』の場合は、そのタイトルが示すように第1作『仮面ライダー』のリメイク要素を含み、仮面ライダーの"原点回帰"を目指しつつ、新たに"空を飛ぶ仮面ライダー"という独自性を打ち出した作品であった。また『BLACK』は、それまでのシリーズから原作者・石ノ森章太郎氏以外のスタッフ(プロデューサー、脚本、音楽、アクション担当など)をほぼすべて刷新し、やはり仮面ライダーの"原点"に戻りながらも、キャラクター造形や映像表現などに最新技術を投入して、新時代の仮面ライダー像を打ち立てる意欲に満ちた作品になっていた。

このように、過去に二度あった仮面ライダー復活の背景には"原点回帰"という考えが重要視されていた。仮面ライダーの原点とは、「昆虫(バッタ)をモチーフにしたヒーロー」「オートバイに乗る」「改造人間」「変身ベルト」というところだろうか。しかし、仮面ライダーを三度よみがえらせようとした『クウガ』については、ことさら「仮面ライダーの原点」にこだわらず、むしろ従来の「特撮変身ヒーロー」ジャンルそのものの流れを変え、過去にない「新しいヒーロー」のドラマを作りたい、という強い意欲によって誕生したのである。それでは次から『クウガ』が取り組んだ、実写変身ヒーロージャンルへの"挑戦"をいくつか挙げてみよう。

『クウガ』が行った挑戦、まず一つ目は「映像表現」である。90年代に入り、すでにテレビドラマの世界ではフィルム(16mm)からビデオ撮影へと移行しているケースが多かったが、独特な世界観を有する特撮ヒーロー作品や時代劇などでは、依然として伝統的なフィルム撮影が採用されていた。そんな中『クウガ』では、他のテレビドラマに先がけてハイビジョン放送に対応したHDビデオ撮影を導入し、画面比率も4:3から16:9のワイド仕様となっている。このため、従来の東映ヒーロー作品を手がけてきたフィルム撮影のスタッフに代わってビデオ撮影スタッフが参加。作品のムードが大きく変化する一因を担っている。ただし、「スーパー戦隊シリーズ」や前番組であった『燃えろ!!ロボコン』(1999年)でも手腕をふるったベテランカメラマン・いのくままさお氏は『クウガ』の撮影監督を務めるにあたってハイビジョン撮影のノウハウを一から学び、フィルム撮影で培ってきた高度なセンスを生かしつつ、ハイビジョンならではの意欲的な映像を生み出している。

それまでにない鮮明画質で描かれるドラマ部分にも、意欲的な"挑戦"が仕掛けられた。画面のクオリティに見劣りしないような、リアリズムが徹底されたのである。好戦的戦闘種族グロンギの怪人が出没した場所にはテロップで「時刻」と「場所」が必ず示され、我々視聴者が生活している身近な場所で、目的不明な恐ろしい殺戮が行われている……というリアルな"恐怖"を生み出すべく、緻密に計算された物語が生み出されていた。正体不明の怪人が人間社会で事件を起こせばまず動くのは警察だろうという考えから、本作では警察組織がグロンギの連続殺人事件を捜査する、というスタイルが多く採用されている。

警察の立場から見れば、グロンギもクウガも同じ"未確認生命体"だという解釈で、劇中でのクウガは終始「未確認生命体第4号」と呼ばれ続けた。このような設定面でのこだわりも『クウガ』の大いなる魅力へとつながっている。クウガに変身する能力を得た五代雄介を主にサポートするのは警視庁刑事・一条薫の役割だが、当初はクウガ=第4号を他の未確認生命体と同じく人類の敵だと思っていた同僚刑事や関係者が、雄介や一条と戦いを共にするうちに第4号への協力態勢を取るようになっていくなど、血肉の通った魅力的な各キャラクターたちの動きが視聴者の興味を惹きつけていった。

本作のヒーロー「クウガ」のキャラクターにも、それまでの実写特撮変身ヒーローを"乗り越える"ための挑戦が見られた。五代雄介が変身ベルト「アークル」を腰に装着して変身した姿であるクウガは、未完成状態のグローイングフォーム(白)、完全な形のマイティフォーム(赤)、スピードに優れ、棒術を使うドラゴンフォーム(青)、ペガサスボウガンによる遠距離攻撃に特化したペガサスフォーム(緑)、大剣タイタンソードをふるうタイタンフォーム(紫)と、戦闘状況に応じて数種類のフォームにチェンジ(超変身)するという設定が話題を集めた。さまざまな武器や攻撃力を備えた強敵が次々と現れる中、雄介は自らの体に秘められた能力をひとつひとつ解明しながら、フォームチェンジを身に着けていく。これ以前にも戦況に合わせてスタイルを変化させるヒーローは少なからず存在したが、フォームチェンジの必然性を重要視し、ストーリー展開の中に組み込んで緻密に描きあげた『クウガ』は確実に"新しいもの"をつかみとり、その後の仮面ライダーシリーズに大きな影響を与えた"先駆者"になったと言っていいだろう。

『クウガ』四つ目の"挑戦"、それは特撮変身ヒーローの「テーマ」そのものに対して行われた。子どもたちが変身ヒーロー作品に求めるものとは、何をさておいてもヒーローがカッコよく悪役をやっつけるという「戦い」の要素に違いない。しかし『クウガ』の文芸陣は、「ヒーローの戦い」も「グロンギの蛮行」も共に突き詰めれば「暴力」ではないか、という考えから、五代雄介という人間像を"戦士として描かない"方針を定めている。オダギリジョーという類まれなる俳優を得て実体化を果たした雄介は、それまでの仮面ライダーのように肉体的な力強さ、精神的なたくましさ(それもまた、ヒーローを描く上で大切な要素のひとつなのだが)を打ち出すのとは違い、人の心を"癒やす"部分に重きが置かれている。争うことの辛さや哀しさを誰よりも知っている雄介が、人々から笑顔を奪うグロンギを倒すため、クウガに変身して挑んでいく。「仮面ライダーが悪い怪人をやっつける」という変身ヒーロー作品の"醍醐味"といえる部分に一石を投じるその姿勢にも、多くのファンが魅力を感じたところだと言えるだろう。

『仮面ライダークウガ』は、すでに"懐かしのヒーロー"として殿堂入りしかけていた仮面ライダーブランドの"復活"と、変身ヒーロージャンルの流れを大きく変えたいくつもの "挑戦"という2つの命題をクリアして、見事に新しい時代のヒーロー像を築き上げた。やがて『クウガ』の世界観を踏襲しながら、異なる方向性を探った仮面ライダーシリーズ『仮面ライダーアギト』(2001年)が誕生する。次回はこの『アギト』の面白さについて、いくつかの例を挙げながら解説を試みよう。

映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』は2018年12月22日(土)より公開される。

■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。

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