米VMwareは2018年8月に開催した同社の年次テクニカルコンファレンス「VMworld 2018」(ネバダ州ラスベガス)で、ブロックチェーンを活用した分散型インフラストラクチャを構築するオープンソースの「Project Concord」を発表 した。

同社は2018年4月、オープンソースのブロックチェーンプラットフォームの開発プロジェクトである「Hyperledger」に加盟している。今回の発表について同社は、「企業向けの分散化された環境の管理とセキュリティ製品のリーダーとして、企業がブロックチェーンのテクノロジを効率的に活用し、ビジネス上の目標達成への取り組みを支援する」としている。

では、実際にどのような活動を行っているのか。そもそも、なぜ、VMwareがブロックチェーンに取り組むのか。同社で「Project Concord」を統括するシニアバイスプレジデント兼CRO(最高リサーチ責任者)を務めるDavid Tennenhouse(デヴィッド・テネンハウス)氏が、日本メディアのグループインタビューに応じ、その取り組みを語った。

  • 米VMwareでシニアバイスプレジデント兼CRO(最高リサーチ責任者)を務めるDavid Tennenhouse(デヴィッド・テネンハウス)氏

-- VMwareは「既存のブロックチェーン技術では、パフォーマンスや拡張性に限界がある」と主張している。VMwareが手掛けるブロックチェーンは、既存のブロックチェーンと何が異なるのか--

Tennenhouse氏: ブロックチェーンは「Distributed ledger technology(分散型台帳技術)」と言われている。VMwareでは企業が利用するブロックチェーン(以下、エンタープライズブロックチェーン)の方向性は、「Distributed(分散型)」ではなく、「Decentralized(非集中型)」であると考えている。

エンタープライズブロックチェーンが必要としている特性を考えると、「拡張性」が挙がる。既存のブロックチェーンが抱える課題に、10程度の分散台帳コピーしか対象にできないということがある。しかし、VMwareが取り組んでいるエンタープライズブロックチェーンは、100から200規模の分散台帳コピーを対象にしている。大規模なエンタープライズ環境で利用することを考えれば、理想は1000程度(の分散台帳コピー)を対象にする必要があると考えている。

もう1つは「時間」の課題を解決することだ。ブロックチェーンはその技術の特性上、1つのリクエストがブロックチェーン上に確定情報として書き込まれるまで、一定の時間を要する。例えば、ビットコインのブロックチェーンの場合は、数日間かかることもある。こうした「レイテンシー(リクエストから確定までのタイムラグ)」を解消するのは、エンタープライズブロックチェーンにとって重要なポイントだ。

-- 今回の「VMworld 2018」ではエッジコンピューティングの強化やIoT(Internet of Things)に関する戦略も発表している。「Project Concord」はこうした領域とどのように連携するのか--

Tennenhouse氏: エンタープライズブロックチェーンは、さまざまな領域で利用されるものだ。もちろん、IoTも例外ではない。

IoTとエンタープライズブロックチェーンの活用が期待されている領域の1つに、サプライチェーンがある。多種多様なモノ・サービスがやり取りされるサプライチェーンには、複数のIoT(のアプリケーション)が活用されている。VMwareはIoTデバイス管理の「Pulse IoT Center」を提供しているが、こうしたソフトウエアの(機能として)ブロックチェーンを活用し、「信頼できる分散台帳コピーを探す」といった使い方も考えられる。

ブロックチェーンの特徴には、書き込まれた情報が改竄されないことと、情報を追跡(トラッキング)できることがある。ブロックチェーンを使ってIoTデバイスがどこで使われているのかを把握することも可能だし、何か問題が発生した場合の迅速な原因特定にも役立てられる。

そのほかにも、例えば、食品サプライチェーンの中で、特定の製品に安全上の問題が発生したとしよう。その場合にはブロックチェーンの情報をトラッキングし、問題の根源が何だったのか、その製品がどのように扱われていたのか、衛生管理上問題がなかったのかを確認できる。サプライチェーンにおいて、取引先と(変更がすべて記録されている)情報を共有できることは、コンプライアンスの観点からもメリットは大きい。

--現在の進捗状況を教えてほしい。既に実装のフェーズにある顧客企業はあるのか--

Tennenhouse氏: 具体的な企業名は挙げられないが、多くの企業がさまざまなフェーズで取り組んでいる。実際に、われわれのテストラボで(実装を)試用している企業もある。われわれのチームは小さいので、(依頼される)すべてを手掛けることは無理だが、広範囲にわたってユースケースがあることはお伝えしておきたい。

一方、既存の技術で解決できる課題については、ブロックチェーンを使う必要はないと考える。われわれは本当にブロックチェーンが必要なのかを見極め、その開発に取り組んでいる。

-- なぜ、「Concord(協和)」というプロジェクト名にしたのか--

Tennenhouse氏: Concordは語感と意味合いが、「Consensus(合意)」に似ている。ブロックチェーンは「合意形成」を支援する意味合いもあるので、Concordという名前にした。通常、プロジェクトを命名する時には、他の組織が利用していたり、社内のほかのプロジェクトと重複したりして苦労するが、今回はすんなり決定した。私はこの名前に満足している。