東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 坂田・森研究室、電通パブリックリレーションズ(電通PR)内の研究組織である企業広報戦略研究所、ホットリンクの3者は、社会的合意形成・政策形成について、AI(人工知能)を用いたソーシャルメディア上のビッグデータの解析及び国会議員を対象とした調査に基づく共同研究の結果を発表した。

これによると、広く分散する社会課題ほど国会議員に声が届きにくいことが明らかになったといい、回答した国会議員の約8割はデータに基づくエビデンスを求める一方で、必要な情報が不足しているとの声が8割を超えるという。

  • 社会イノベーション課題推定AIの仕組み

同研究では、新たに「社会イノベーション課題推定AI」と、ソーシャルメディア上のコミュニティを推定する「コミュニティ推定AI」という2つのAIを開発した。この2つのAIに、政府が定めた「未来投資戦略2017」及びツイッターのデータを掛け合わせることで、普段どのような興味を持っている人が、どのような社会課題に関心があるのかを明らかにすることが可能になるという。

  • 社会イノベーション課題の4分類

具体的には、2017年7月のツイートをランダムサンプリングした数千万件以上のデータから、社会イノベーション課題を推定するAIを用いて18の社会イノベーション課題を抽出した。

さらに、ソーシャルメディア上のコミュニティを推定するAIを用い、18の社会課題をツイッター上の「ツイート数の多さ」及び「ツイートの特定のコミュニティへの集中度(トピックエントロピー)」に基づき、4グループに分類したという。

  • 社会イノベーション課題解決に役立つ情報への国会議員のニーズのスコア(4分類別平均、100点満点)

その上で、この18の社会イノベーション課題への認識について国会議員にアンケートを実施し、回答を得た64人の国会議員による課題ごとの得点について、平均点を算出したという。その結果、「特定のコミュニティが話題にしている課題」や「特定のコミュニティにとっての潜在的な課題」については、国会議員の認識度が高いことがわかったとしている。

このようなAIを用いた社会イノベーション課題の抽出については、同調査に回答した国会議員の約9割が「必要である」と回答したという。

  • 国会議員がイノベーションを考える際に必要な情報と充足度

国会議員に対して、イノベーション政策を考える際に必要な情報と情報源について尋ねたところ 「基礎情報・データ・統計」(84.4%)、「科学的な分析・解説」(78.1%)、「経済効果等の試算結果」(75.0%)など、データなどの客観的なエビデンスを必要としていることが明らかになった。

情報の充足度について尋ねると、「基礎情報・データ・統計」は18.5%にとどまり、以下「科学的な分析・解説」(8.0%)、「経済効果等の試算結果」(12.5%)など、軒並み低く、必要な情報ほど足りていない傾向が現れたという。

  • 国会議員がイノベーションを考える際に利用している情報源と信頼度

実際にイノベーション政策を考える際に利用している情報源は、「新聞・テレビ・ラジオ・雑誌等の報道」(82.8%)、「関係省庁」(81.3%)、「勉強会・研究会」(76.6%)の順だった。

一方、利用している情報源への信頼度は「国会図書館」(85.7%)、「勉強会・研究会」(77.6%)、「関係省庁」(69.2%)の順で高い一方で、信頼度の低い情報源としては、SNS・ブログ・動画共有サイトなど(14.8%)やネットニュース(17.1%)が多かった。

イノベーションを促す政策において特に重視している観点は、「日本の国際競争力」(76.6%)が最も多く、以下「経済効果」(64.1%)、「国民の幸福度」(50.0%)、「国民の健康・安全」(45.3%)と続く。

イノベーションを促す政策を立案する上での課題としては、「政策を立てるための情報(エビデンス)が不足している」(62.5%)や「政策立案をサポートする専門性を持ったスタッフが足りない」(56.3%)といった声が多かったという。

これらの結果から、イノベーションを通じて社会課題を解決するためには、社会に存在する課題を明らかにすると共に、課題解決を牽引する国会議員に対して、課題への正しい理解と議論を促すための情報提供が必要になると3者は指摘する。

また、社会イノベーション課題に対する政策立案の際に、国会議員はデータに基づく客観的なエビデンスを必要としている一方で、そのエビデンスなど必要な情報が不足していることが明らかになったとしている。

一方で、若者を中心に広く普及しているSNS・ブログ・動画共有サイト・ネットニュースなどの情報源については、国会議員からの信頼度が比較的低い結果になったという。

AIによるツイートのビッグデータ分析と国会議員の認識度から3者は、政策提言を考える企業や団体はイノベーション政策の立案時に必要とされるデータなどのエビデンスを、積極的に国政の場に提供していくことが重要だとしている。

今後、国会議員への情報提供の1つとして、ソーシャルメディアからAIを利用して、顕在化する前の社会イノベーション課題を抽出していく仕組みを作ることが、国民の声を国政に届きやすくする1つの役割を担っていくと考えられるという。