納税に関する問い合わせ応対にAIチャットボットを採用

東京都主税局が、税務相談窓口においてAIを活用したチャットボットで自動応対する取り組みを進めている。2017年秋にシステム開発事業者の公募を行い、2018年5月から7月までに、3回にわたって実証実験を行い、効果を確認した。

1回目は「自動車税に関する問い合わせ」への対応で5月1日~6月15日に実施、2回目は「納税や納税証明に関する問い合わせ」への対応で6月1日から7月2日まで実施、3回目は「主税局ホームページのコンシェルジュ」で7月1日から7月31日まで実施した。

期間中に主税局のホームページを訪れた人の中には、主税局のマスコットキャラクターである「タックス・タクちゃん」や「のうぜい・ノンちゃん」が、都民からの質問に答えるチャットボットとして24時間休みなく働いていたのを見た人も多いはず。システム改善担当課長の渡邉嘉子氏は、取り組みの背景についてこう話す。

  • 東京都主税局 税制部 システム改善担当課長 渡邉嘉子氏

「5~6月は税務に関する問い合わせが格段に増えます。自動車税や固定資産税の納税通知書をそれぞれ約300万通発送し、ホームページへのアクセスはおよそ月500万件に達します。窓口応対や電話応対にあたるのは都税事務所の職員ですが、開庁時間や人手の問題もあり、多くの方に満足できる行政サービスを提供できているわけではありませんでした。そこで注目したのがAIを活用したチャットボットでした」

AIを活用したチャットボットは企業ホームページの問い合わせ窓口で採用が進んでいる。行政サービスとしても横浜市がチャットボットによる「ごみ分別」の実証実験を行うなど関心を集めた。横浜市のごみ分別ボットは「旦那を捨てたいんだけど」という質問にもうまい切り返しをすると話題になった。

そんななか、チャットボットを使うことで「納税者からの意見や要望を反映させる仕組みを構築し、より質の高い納税者サービスを提供できるのではないか」と考え、問い合わせが集中する5~6月にその効果を確認したわけだ。

税務対応を効率化し行政サービスの質の向上につなげる

チャットボットと一口に言っても、サービスを提供する事業者によってタイプはさまざまだ。定型的な回答を返すだけの簡単なものから、AIでデータを学習し複雑な文章やゆらぎの多い自然文に対応できるものもある。定型文を返す簡単なチャットボットでも、利用シーンにうまくあてはめることで、高い効果を上げることができるとされる。

ただ、主税局においてチャットボットの取り組みは初めてのことであり、局内にも運営のノウハウを持ってはいなかった。そこで実証実験では、各回で異なるベンダーの異なるタイプのチャットボットを採用しながら、適用領域や得意分野を見極めることもあわせて行った。システム管理課 運用管理班 主任の佐藤昌介氏は取り組みのポイントの1つに、問い合わせに対する質問(QA)作成によるサービスの質の向上と負荷軽減があったとし、こう説明する。

  • 東京都主税局 税制部 システム管理課 運用管理班 主任 佐藤昌介氏

「税務相談の内容は多岐にわたります。『私の税額はいくらか』といった税務職員でなければ対応できない相談もあれば、その一方で『納付窓口はどこか』『クレジットカード払いは可能か』といった、知識があれば誰でも対応できる相談もあります。まずは、よくある質問をチャットボットで答えられるようにすることで、税務職員の負担を軽減することを目指しました」

1回目の自動車税については、NTTドコモが開発したサービス「Repl-AI」と日本IBMの製品を採用した。2回目の納税や納税証明については、日本オラクルのクラウドサービス「Oracle Service Cloud」「Oracle Database Cloud」「Oracle Application Container Cloud」などを用いた「AIチャットボット」を採用。3回目のコンシェルジュには、日立製作所の「チャットボットサービス」を採用した。1回目と2回目を担当したシステム管理課 運用管理班の梶沼想氏は、各回の役割をこう説明する。

  • 東京都主税局 税制部 システム管理課 運用管理班 梶沼想氏

「QAは1回目と2回目でそれぞれ300程度。対象を限定してAIによる認識の違いなどを見ていきました。3回目では対象を全領域に広げて、QAの数も1000程度を用意しました。QAのペアを作成し、日本語のゆらぎや自然な会話にどう対応させるかのチューニングが最も苦労したところです」(梶沼氏)

日本語のゆらぎや日常会話にどう対応するか

Q&AのペアをAIに学習させることで、それに類似する問い合わせがあった時も自動で回答することができるようになる。ただ、納税応対は、一般的な企業の問い合わせのためのAIチャットボット構築とは異なる要素も少なからずある。

例えば、税務は正確さが求められる業務であることだ。納税に直接関わるため、誤解やミスは避けなければならない。渡邉氏は「税務職員としては条文を記載して正確を期したいところなのですが、そうすると、文章が長くなり、チャットボットを利用する意味も薄れてしまいます。文章を適度に短くしながら、いかに正確に伝えるかに難しさを感じました」と振り返る。

また、税務の専門用語と日常会話でペアを作ることの難しさもあった。例えば「納付」「納税通知書」という言葉は、税務では当たり前でも、日常会話の中ではほとんど使われない。「税金」「紙」といったキーワードから、いかに正しい答えにたどりつけるかをチューニングしていく必要がある。

梶沼氏はその難しさについて、「『税金の払込用紙』ならヒットするのですが、『税金の紙』ではうまくヒットしないということが起こります。AIに学習させる場合、どのような質問をどう学習するかが重要であり、ヒットさせるために、質問と回答のペアがどんどん増えていくということもありました」と話す。

学習をどう行うかも課題だった。Q&Aはホームページなどに記載していた既存のものを流用できたものの、日本語のゆらぎなどを考慮すると、正しくヒットさせるには量が足りなかった。そこで、よくある質問を新たに作成、整理する必要があった。佐藤氏はこう話す。

「約3000人の税務担当職員が普段受けている質問を集めて、AIに学習させました。テストでは、質問をチャットボットに投げかけてもらい、その結果を見てさらにチューニングを加えるという作業を3回繰り返しました」(佐藤氏)