地球のまわりを回る、無数の「スペース・デブリ」(宇宙ゴミ)。日本ではSF作品『プラネテス』や映画『ゼロ・グラビティ』の影響もあっておなじみのこの問題は、最悪の場合、人類が宇宙に出ていくことすらできなくなる危険性をはらんでいる。

この脅威に対して、少しずつではあるものの対策が進みつつある。そして、その大きな有効打となりうる「デブリ除去」も実現のきざしが見えつつあり、2018年4月には欧州が開発した試験衛星「リムーヴデブリ」が打ち上げられた。しかし、この宇宙のゴミ問題を解決するためには、まだ課題もある。

  • 欧州が打ち上げたデブリ除去の試験衛星「リムーヴデブリ」の想像図

    欧州が打ち上げたデブリ除去の試験衛星「リムーヴデブリ」の想像図 (C) RemoveDEBRIS consortium

スペース・デブリ問題のいま

1957年に世界初の人工衛星「スプートニク」が打ち上げられて以来、人類はこれまでに約8000機の衛星を打ち上げてきた。そのうち、現在も稼働している衛星は1500機ほどとされる。

しかし、これは現在軌道上にある衛星が1500機、という意味ではない。古くなって大気圏に落下したり、宇宙船のように地球に返ってきた衛星はあるものの、機能を停止したものも含めると、5000機近い衛星が地球を回っている。

そして、地球を回っている物体はそれだけではない。人工衛星を打ち上げるときには、ロケットの機体や搭載機器のカバーなど、余計なものも軌道に乗ってしまう。また、衛星が爆発・分解したり、衛星同士が衝突したり、衛星を破壊する実験をおこなったりしたことで、数多くの破片も生み出されている。

こうした機能を停止した衛星や、打ち上げ時に発生した部品、新たに発生した破片などのゴミのことを、文字どおり宇宙ゴミ、「スペース・デブリ」と呼ぶ。

現在、軌道上にある物体の多くは、米空軍の18 SPCS(18 Space Control Squadron)という組織が、世界各地に設置したレーダーや望遠鏡を使って追跡している。同隊によると、2018年4月現在、約1万8922個の物体を追跡している。

約2万個という数でも驚きだが、しかしこの数はあくまで、追跡できるものに限ったものである。18 SPCSは低軌道で約10cm以上、静止軌道で約1m以上の物体を追跡することができるが、当然それよりも小さな物体も数多く存在する。米国航空宇宙局(NASA)などの推計によれば、1cm以上の物体は50~70万個、1mm以上のものだと1億個以上存在すると考えられている。

  • 地球低軌道にあるデブリの想像図

    地球低軌道にあるデブリの想像図。ただし地球の大きさに対して白い点の大きさは正確ではないので、誇張されたイメージである (C) NASA

こうした小さなデブリも、それぞれ地球のまわりを秒速数kmという高速で飛んでいる。もし衛星と衝突すれば、機能停止どころか、新たに破片を生み出すことになり、あるいはデブリ同士が衝突しても、やはり新たに細かな破片が生まれる。

もちろんデブリの中には大気圏に落下していくものもあるが、長い間残り続けるものも多く、その間になにかと衝突するなどし、新たなデブリを生み出す発生源にもなる。ある研究では、大気圏に落ちて軌道からなくなるデブリの数よりも、新たに生み出されるデブリのほうが多いとされ、今後もその数は増加していくと予測されている。

さらにある研究では、デブリが衝突して新たにデブリが生まれ、さらにそのデブリがまた別のデブリに衝突し……と、デブリが"自己増殖"し続ける可能性も指摘されている。これを「ケスラー・シンドローム」と呼ぶ。これはあくまで最悪のケースを考えた場合であり、計算に使うモデルや、そもそもの前提となるデブリの推定数などによって、こうしたことは起きない、起こる可能性は低い、とする研究結果もある。

だが、もしかしたら将来、地球がデブリに取り囲まれ、人や衛星を宇宙へ気軽に飛ばせなくなる可能性は十分にありうる。

  • 静止軌道やその周辺にあるデブリの想像図

    静止軌道やその周辺にあるデブリの想像図。低軌道の図と同じく、誇張されたイメージであることに注意 (C) NASA

スペース・デブリを除去せよ

こうした事態を防ぐため、さまざまな方法が考えられ、実施されているが、決して十分とはいえない。

たとえば、2007年に国連で採択された「スペース・デブリ低減ガイドライン」では、今後打ち上げられるロケットや衛星については、極力デブリが出ないようなつくりにしたり、低軌道衛星は運用終了から25年以内に大気圏に再突入させたりといったことが定められている。

しかし、このガイドラインに法的拘束力はなく、加盟国の自主的な取り組みに委ねられているのが現状である(国連外でまた別の「宇宙活動に関する国際行動規範」を作ろうという動きはある)。

また、これが完全に履行されたとしても、すでにあるデブリが減るわけではない。つまりデブリを除去、"ゴミ拾い"をする必要もある。

ただ、小さなデブリは回収しづらく、その数も膨大なため焼け石に水である。そのため、衛星側が回避したり、衝突に耐えられるようなつくりにしたりするしかない。

  • NASAの太陽観測衛星「ソーラーマックス」にデブリが衝突してできた

    NASAの太陽観測衛星「ソーラーマックス」にデブリが衝突してできた"弾痕"。当たったのはごくごく小さなデブリと考えられているが、それでもこれほどの穴が開く (C) NASA

いっぽうで、大きなデブリは比較的回収・除去しやすく、それ単体でも危険な上に、大量のデブリの発生源にもなりうることから、除去する意義も大きい。ある研究では、混雑した軌道にある大きなデブリを、年間5~10個程度除去すれば、現状のデブリ数を維持できると予測されている。

こうしたことから、デブリ除去のための衛星を打ち上げ、大きなデブリを取り除こうという計画が世界中で進みつつある。

だが、たとえ大きなデブリが相手とはいえ、それを回収・除去することはきわめて難しい。軌道速度で飛ぶデブリに、自らも軌道速度で接近しなければならないし、安全に接近できずぶつかってしまえば、デブリを減らすつもりが逆に増やしてしまうことにもなりかねない。

また、まさに物理のテストのように「ただし摩擦や空気抵抗は考えないものとする」が正しく働く宇宙において、デブリをただ捕まえることも難しい。これまでさまざまな方法が提案されたり、技術実証がおこなわれたりしたが、実際に打ち上げられることなく机上の空論で終わったり、満足な成功は収められなかったりと、成果はかんばしくない。