『アイドルマスター ミリオンライブ!』高山紗代子役として数多くのキャラクターソングを担当したり、『キラキラ☆プリキュアアラモード』での主題歌に起用されたりと、抜群の歌唱力で話題を呼んだ声優の駒形友梨。

  • 駒形友梨(こまがたゆり)。1991年8月25日生まれ。東京都出身。 スペースクラフト・エンタテインメン所属。主な出演は『アイドルマスター ミリオンライブ!』高山紗代子役、『まんがーる!』鳥井あき役、『未確認で進行形』三峰白雪役など。同事務所所属の野村香菜子、角元明日香と3人でパーソナリティを務めるラジオ「だれ?らじ」ではキレのあるツッコミ役として番組を進行する
    撮影:Wataru Nishida(WATAROCK)

そんな彼女が6月20日、念願のソロデビューを果たした。TVアニメ『踏切時間』のオープニングテーマにも起用されたデビューシングル「トマレのススメ」。今回は「駒形友梨と音楽」をテーマに、幼少時代の音楽との出会いから、じっくりと話を聞いた。

▼ひとりきりという不安

――デビューおめでとうございます。いまは念願叶って、という状況でしょうか。

はい! 歌はずっと好きでしたし、私が声優を目指したきっかけは『シャーマンキング』の林原めぐみさんなんです。ひとつのアニメで主題歌もうたいキャラクターも演じている林原さんを見て「私も両方できる声優になりたいな」と思ったんですよ。なので「自分の曲を持つ」というのは、自分の声優人生の中で必ず叶えたい夢のひとつだったんです。

――デビューのお話はいつごろ?

2017年の秋くらいにマネージャーさんから話を聞きました。でも、まだ決定ではなく、「決定したら報告するから待ってて」という感じでした。ドキドキしながら日々を過ごしていたら、「この間の話が正式に決まったよ」と言われて、嬉しいというよりも安心感の方が強かったですね。

――どうしても不安はありますよね。その待っている間にいろいろ考えることもあったと思います。

決まるまでは気負わずにいられたんですけど、決まってから「これからどうなるのかな」って。これまでキャラクターソングや『キラキラ☆プリキュアアラモード』の主題歌はうたっていましたけど、表現するときは、常に自分の前にキャラクターや作品のフィルターがありました。そのフィルターがなくなって、自分だけで表現するというイメージができなかったんです。特に『アイドルマスター ミリオンライブ!』ではキャラクターと一緒に舞台に立つという感覚が強かったので、「一人きりでできるのかな」という不安はありました。

――その中でも「こういうアーティストになりたい」みたいなビジョンはありました?

私は、大勢に向けて「みんなで元気になろう」という曲より、1対1で私自身に語りかけてくれる曲のほうが好きなんです。落ち込んでいるときやつらいときに励まされてきたので。私も、たくさんの人を元気にできなくても、ほんの少しでも力になれるような歌がうたえたらと思っています。あと、私は坂本真綾さんが大好きなので、真綾さんのようなアーティストになれたらいいな……というイメージはありました。

――たしかに駒形さんといえば坂本真綾さんというイメージです。いつ坂本真綾さんの音楽と出会ったんですか?

最初に認識したのは『ツバサ・クロニクル』の主題歌「ループ」だったんですけど、もともと『カードキャプターさくら』が好きだったので、出会いは「プラチナ」から。ちいさいころだったので、誰の曲かは知らずに覚えて歌っていました。その後に妹がはじめてCDを買ってきて、それが『ツバサ・クロニクル』の「風待ちジェット」だったんですよ。カップリングの「スピカ」もいい曲で当時は「この歌っている坂本真綾さんって人、やばい!」って思って、お店に行ってCDをあるだけ買いました。

――その買ってきた楽曲の中から駒形さんが印象に残った曲は。

たくさん買ってきて、最初にCDプレイヤーで聴いたのが「ヘミソフィア」で、「なんだこれはー!」って思いながら聴いていって、カップリングの「音楽」で、また衝撃を受けて「いろいろな曲を歌われるんだな」と思ったのを覚えています。私の音楽の世界観は真綾さんのおかげで広がっていきました。

▼人前で歌う楽しさにあふれた高校生活

――もともと歌うことも好きだったとのことですが。

両親がよく家で音楽を聴く家庭でしたし、一緒に住んでいたおばあちゃんが演歌のカラオケ教室に通っていたり、よくコンサートを観に行ったりと、歌が当たり前の空間で過ごしてきたんです。生きていく要所要所で歌っていくんだな、という感覚がありました。だから私もちいさいころはアニメの曲を真似して歌っていましたね。人形を並べて、コンサートごっこをしていました。

――はじめて家族以外の前で歌ったのは。

友だちとのカラオケですね。はじめてカラオケに触れたのは小学校5年生くらいで、そのときはおばあちゃんに連れて行ってもらっていました。中学生になってからは、友だちとふたりで毎週末にフリータイムで朝11時から18時までぶっ通しで歌うくらい。「もっと上手になりたいな」って思ったのもその時期ですね。

――気になるのが、駒形さんの歌に対しての評判ですが。

最初は真似をしながら歌っていたので、子どもにしてはませた歌い方だったんですよ。母親からも「そんな鼻にかかった声で歌うんじゃない」とか「格好つけてうたうのやめなよ」みたいに言われて、でも私は真似をしたくて。ある時、父の前で真似ではなく何気なく歌っていたら、「そんな歌うまかったの? めっちゃうまくない?」みたいに言われて。それからはカラオケに行ったときも、友だちから「友梨ちゃん歌うまいよね」ってびっくりしながら言われることがありました。

――歌が好きなのが高じて、高校ではフォークソング部に入りましたね。

そうなんです。カラオケとかで親しい人たちの前で歌うことはあったんですけど、それが逆に不完全燃焼で、表立って歌える機会があればいいなと思ったんですよ。高校には軽音楽部がなかったのでフォークソング部に入りました。アコギを覚えて、文化祭でバンドを組んで生徒たちの前で歌っていました。

――フォークソング部ではどういった活動を?

まず最初の行事として「ギター買い」っていうのがあるんです。先輩たちと一緒にギターを買いに行って、帰りに公園に寄って、ギターを弾ける子が披露して、という。そこで『リトル・マーメイド』の「パート・オブ・ユア・ワールド」を弾いている子がいて、私が一緒に歌ったらみんな褒めてくれたんですよ。私が人前で初めて歌った場所は公園ですね。

――これまで不完全燃焼だった気持ちが満たされる高校生活だったんですね。

高校はひたすら楽しかったですね。これまでやれなかったことに全部挑戦できるし、歌ったら褒めてもらえるし! 中学校のころは地味で目立たなかったんですけど、高校で歌うようになってから、「友梨ちゃんって歌の上手な子だよね」って周りの人に覚えてもらって、文化祭で歌ってからは話しかけてくれる子もいて、嬉しかったですね。満たされた時間でした、勉強はまったくしなかったんですけど(笑)。

▼悔しい思いをしている人の背中を押してあげたい

――ここからは楽曲について。デビュー曲が「トマレのススメ」に決まった理由ですが、こちらはコンペで選ばれたんですか?

コンペではありますけど、最初にA&Rの方と、私がどういう曲が好きかのディスカッションをしたんです。「好きな曲を10曲選んで、その感想を書いてください」と言われたので提出したり、お互いの好きな曲を交換したりして、私が好きな音楽の方向性を理解してくださったんです。そこから私の好きな方向の曲を募集して、3曲まで絞ったところで私も実際に歌ってみて決めていきました。でも、その時点でお互いが「いいな」と思う順番が一緒だったんです。なので、すんなりと「トマレのススメ」に決まりましたね。

――最初に聴いたときの印象は。

私はアコースティックなアレンジが好きなので、前奏からストリングスがガンガン入っていて、さわやかで綺麗なメロディラインで、ドストライクな曲だなと。私の好きな曲だなって。

――ディスカッションの効果がバッチリあらわれていたわけですね。たとえば駒形さんが「好きな曲」と「歌うときに得意な曲」は一緒なんですか?

学生のころは、自分はバラードとかスローな楽曲が得意だと思っていたんですよ。それこそ真綾さんが歌うような雰囲気のある綺麗な楽曲が。その分、かわいい表現をする楽曲は苦手だと思っていたんですけど、お仕事をはじめてキャラクターソングや『プリキュア』でかわいい楽曲を歌っていくうちに歌えるようになってきたんです。「いいですね」って言われるようになって、これも表現のひとつなのかなって自分の中に落ちてきました。

――ファンの方はそちらのイメージのほうが強いかもしれないですね。

そうなんですよ、むしろそちらのイメージなのかなって。苦手なことが得意なことに変わるのはありがたいですよね。「トマレのススメ」もテンポが早くてキーが高いので、歌いこなすのが難しいんですけど、これまでいろいろな楽曲を歌わせていただいたから、いま歌えるんだなって思っています。

――レコーディングはいかがでしたか。

時間的にはそんなにかかってはいないんですけど、楽曲が難しいので、気を抜くとリズムに置いてかれるんです。曲に集中して、歌いこなさないといけないので、結構スタミナを使いましたね。汗をかきながらレコーディングをしていました。

――ディレクション的なものは。

それが、あまりなかったんですよ。1回歌ってディレクターさんに聴いていただいたんですけど、「その方向でバッチリなので」って。そこからは自分がもっといいものを出せるように、ド集中しながら歌っていきました。だからレコーディングの記憶があまりないんですよ。

――それだけ入り込んでいたんですね。

はい。「トマレのススメ」は、進み続けることが良いと言われている世の中で、「止まっている時間があるから、次に進めるんだよ」と歌っている曲です。私自身にも、立ち止まらなきゃいけない時間がありました。私は進めないのに、まわりの人がどんどん先に行ってしまって、悔しい思いをした期間もあったんです。なので、その自分のもどかしい気持ちをこの曲が肯定してくれたというか、「その時間があるからいまがあるんだよ」って言ってくれたのかなって。

――自分へのメッセージにもなった。

歌詞が自分の気持ちに近かったので、感情が込めやすかったですね。あのころの自分に対して歌ってあげている感覚です。実際に、いま悔しい思いをしている人の背中を押してあげられる曲になったらなと考えて、そういった気持ちを込めながら歌っていきました。

――「トマレのススメ」はTVアニメ『踏切時間』のオープニングです。踏切で立ち止まっている人たちのやり取りを描いた作品ですが、それに合わせてMVではたくさんの踏切や道路標識に囲まれていましたね。

ひとりでMVを撮影するのは今回がはじめてだったんですよ。完成したときに、どう使われるのかをイメージできないまま撮影していきました。それと、お客さんがいないところでカメラに向かって歌うのも初めてだったので、これでいいのかなって心配しながら(笑)。でも、私よりもまわりのスタッフさんの方が楽しそうに撮影をされていて、和やかでいい雰囲気だったので、自然とリラックして収録できました。