唐突ではあるが、現代の「四大唇美人」として石原さとみ、斎藤工、松坂桃李、そして田中圭を挙げたいと思う。なぜ女性がひとりで男性が3人もとツッコまれるかもしれないが、魅惑的なパーツは男女関係ない。唇に存在感があり、黙っていてもなにかを語っているように見える俳優たちは愛されキャラがよく似合う。

田中圭は今クール(2018年4月~)で最高の愛されキャラを演じていると思う。話題の『おっさんずラブ』(テレビ朝日系 毎週土曜23時15分~ ※6月2日最終回)でだ。

  • 田中圭

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最終回直前で衝撃展開

田中演じる会社員・春田創一は、会社の部長・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)と後輩かつルームメイトの牧凌太(林遣都)のふたりに愛されている。

なぜ、男同士? という疑問はナンセンス。愛はボーダーレス、バリアフリーということで、男同士の愛が止まらない。

ただ、春田(はるたん)には同性愛の経験がなく、戸惑いまくり。すったもんだの末、5話でついに牧とつきあうことになるが、6話では、黒澤が諦めずに虎視眈々と再チャンスを狙っていて、さらに女性のちず(内田理央)にも告白されて、それを知った牧が身を引いて……と怒涛の展開に。あれよあれよという間に1年の月日が経過して、黒澤と同棲しているという衝撃の展開で、果たして最終回はどういうふうに決着がつくのかやきもきするばかり。

『おっさんずラブ』は各々のキャラクターがピュアでかわいいと人気。それと、熱情がどストレートにあふれる武蔵と、ややツンデレふうな牧(5話でなんだかんだ言いながら最終的に「じゃあつきあってください」と春田を丸めこんでしまうテクが凄い)、それぞれの猛アタックに的確なリアクションをする春田の表情を楽しむドラマでもある。

ナチュラルな演技に定評

これまでの田中圭はナチュラルな演技に定評があった。ふつうの学生、ふつうの会社員……と日常にいそうな“ふつうさ”の表現がじつに巧みだった。『おっさんずラブ』でもビジネス系のリュックを背負ったスーツ姿とかいかにもいそうだし、6話で倒れた牧のために料理する姿とかハイスピードカメラ(スローモーション)を使って印象的に見せているにもかかわらず、じつにナチュラルなのだ。そんなふつうの男性(ただし、恋愛経験が少なく、日常生活も怠惰)が男性たちにモテるという思いがけない状況に出会って変化していく物語に、田中圭の存在感はうってつけだ。

誤解しないでほしいが、映画やドラマでふつうが一番むずかしい。映画やテレビに出る人は絶対的に華があるので、その人がふつうを演じてもどこか嘘っぽくなる。カメレオン俳優という言葉があっていろんなものになりきることを言うが、田中圭の場合、いわゆる変身する意味のカメレオンというよりも、本来の体色変化機能によって風景と同化して見せるという、環境に“馴染む”能力が高いように感じる。あえて凄く見せない演技が凄いという難易度の高いことができる俳優だ。ただ、完全に溶け込んじゃいそうな田中圭を、決して見失わせないものがある。饒舌な唇だ。この鮮烈な印象がどんなに生活に溶け込んでいても、彼が俳優の技で溶け込んでいるのだということをわからせてくれる。

つねに「本物」の価値しか感じさせない天才

そんな異色の変色俳優・田中圭が『おっさんずラブ』のはるたんでは、少々漫画チックなオーバーアクトをしていて、これがハマっているのだ。さすが変色俳優・漫画チックな画にもみごとにハマってしまうのであった。

モテ経験の皆無の春田が、ふたりの人物に言い寄られるまんざらでもない感じ。でも相手は男であって驚き困惑する感じを、ビビッドに演じている。男同士の恋愛に踏み込めない感情はあるが、決して、マイナスな感情にはならないところもいい。

その一方で、つきあうことになってからの、さりげない気持ちのミリ単位の感情の上がりもみごとにやってのける。背中からもちょっとうれしい感じが伝わってくる。こっちこそが田中圭の真骨頂で。田中圭は、それっぽいことをそれっぽくやることは決してない。天才なのにバカの振りをすることも、偽物の宝石を高級ジュエリーだと言って売るようなことがない。つねに「本物」の価値しか感じさせない天才だ。

『おっさんずラブ』に田中が起用されたのは、男同士の恋でも、それを特別なことに見せない、当たり前の感覚であることを感じさせられるからなのではないかと思った。そこは決して戯画化しない。ほんとうに日常で誰かを好きになって、一緒にいられて嬉しい気分がにじみ出るのだ。

自然だ、ナチュラルだ、ふつうだと連発したが、肉体美だけは突出している。4話の風呂上がりの僧帽筋や広背筋、三角筋、そして腹筋の育ち具合、6話でおしりを突き出して黒澤の話をメモっているときの大殿筋の張りなどビジュアル面はけっして風景に埋没しない。唇と同じに。

頭隠して尻隠さず的な、耳なし芳一の耳のような、完璧に気配を消して、日常の風景に同化していたつもりが隠れきれてなかった……、その隙こそが田中圭の俳優としての最大の武器である。

そこに惹かれるのは黒澤と牧には限らない。

■著者プロフィール
木俣冬
文筆業。『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中。ドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』、ノベライズ『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP 』 など。5月29日発売の蜷川幸雄『身体的物語論』を企画、構成した。

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