世界の人口は2050年までに100億人にせまると予測されている。衣食住という人間が普通に生きるための基本的なリソースだけを考えても既存のインフラでは困難になることも懸念される。人が活動、交流することで潤う経済には既存の概念を超えたモビリティが必要になってくる。

これら課題の解決に取り組むトヨタ・モビリティ基金は24日、英国に拠点を持つアラン・チューリング研究所(Alan Turing Institute)とAIを活用した都市計画と交通流最適化に向けた共同研究を開始したと発表した。

Alan Turing Instituteは第二次世界大戦時のドイツの暗号機エニグマの解読、またコンピューター原理の原型とも言える計算機モデル「チューリングマシン」の発表などで知られるアラン・チューリングの名を冠する研究所で英国の名だたる大学たちとのジョイントベンチャーで設立。データサイエンスや人工知能などを用いた科学や社会、経済分野での研究を行う。両者は人工知能を活用した都市計画と交通流最適化に関する18カ月の共同研究を開始した。

目指す成果として、

・人工知能が組み込まれた交通信号制御システムの構築

・シナリオ検証や、交通状況の監視・予測等を可能にする統合データ操作プラットフォームの構築

・交通事業者および都市計画者が活用可能な、様々なメカニズムの解明」(例:渋滞や高濃度大気汚染地域の共有、問題の深刻化回避など)

を挙げており、最適化された都市交通の管理が期待される。過度な集中は、車や電車の移動の遅延による経済的損失や通勤・通学の問題、延いては歩行者にも影響が出てくるはずだ。通勤時の信号待ちの歩行者道路に人が溢れそうになっている光景が日本でも見られる。

両者は従来の交通管理や信号の制御では困難なニーズに、データサイエンスの力を投入し、この課題解決を狙うことになる。研究にはケンブリッジ大学やマンチェスター大学から数学、データ相互作用の研究者、ソフトウェアエンジニアも参加するほか大ロンドン行政庁(Greater London Authority)から関連部署の専門家、トヨタ・モビリティ基金からはモビリティの専門家が協力する。

Alan Turing InstituteのCEOであるアラン・ウィルソン氏は「我々のビジョンは、都市計画者と管理者に、リアルタイムの状況把握および分析や、シナリオ検証が行え、数学とコンピューターモデリングと機械学習モデルを統合し、行動変容の発生タイミングを予測できるシステムを提供することです。データと最新技術を活用することで、短期間に輸送形態に劇的な変化をもたらすことが可能になっています。我々は共同研究が、交通管理による安全性と効率の向上に加え、都市に住む人々の健康と移動の自由に寄与することを願っています。」と交通管理とAIの親和性とそれがもたらす都市の発展と健康の両立を述べている。

トヨタ・モビリティ基金は2014年8月の設立以来、タイやベトナム、インドやブラジルでの交通手段多様化、日本の中山間地域(山間地及びその周辺の地域)での移動不自由解消のためのプロジェクトなど研究を重ねており、"移動"が未来を創るモビリティ社会のために尽力している。

トヨタ・モビリティ基金のプログラムディレクター ライアン・クレム氏は、「これまで我々は自動車内部における人工知能の活用に重点をおいていましたが、ATIとの共同研究を通じ、データサイエンスと人工知能によって交通インフラを改善する機会を得たことに、とても感謝しています。社会の発展と世界中の人々の豊かな暮らしの実現のために、モビリティは大変重要な要素であると考えています。本共同研究は、社会への貢献と、すべての人々の移動の自由の実現に向けた重要な一歩です」とモビリティを通じて社会の発展に寄与していくことを述べている。

合わせて同社では、2030年には世界人口の約60%が都市部に集中するという予測を引いて、都市部で暮らす人々の健康維持のために、交通の混雑を管理する必要性を説いている。