マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、大面積・高品質のグラフェンをロールtoロール方式で大量生産する技術を開発したと発表した。グラフェンを利用したろ過膜などの用途で、産業規模の量産に適用することを目指すとする。研究論文は「Applied Materials & Interfaces」に掲載された

  • ロールtoロール方式による大面積・高品質グラフェンの連続生成装置

    ロールtoロール方式による大面積・高品質グラフェンの連続生成装置 (出所:MIT)

グラフェンは炭素原子が六角形の格子状に結合した二次元材料である。炭素原子の格子構造の網目は極めて細かいため、ヘリウム原子(すべての元素の中で原子半径が最小)でもグラフェンを透過することができない。このため、グラフェンの表面に寸法制御した穴を開けることによって、穴のサイズよりも小さな分子だけを通して、穴よりも大きな分子は通さないというろ過膜の機能をもたせることができる。

グラフェンを利用したろ過膜についてはすでに研究例があるが、その多くは小さなサイズの試料を作製したという報告にとどまっている。ろ過膜・フィルター材料として工業的に実用化するには、大面積のグラフェンを低コストで効率よく生成する技術が必要になる。

今回の研究ではこうした狙いから、大面積かつ高品質のグラフェンを、印刷機などと同じロールtoロール方式で連続的に生成することを目指した。

研究チームが開発したグラフェン製造装置では、まずはじめに2本のスプールのうちの一方に幅1cm以下の細長い銅箔のロールをセッティングしておく。スプール同士はベルトコンベアでつながっており、銅箔は反対側のスプールに巻き取られていく途中でグラフェン成膜用のCVD炉の中を通過していく。このときに銅箔の表面全体にグラフェンが成膜される。

途中のCVD炉は2室に分けられており、第1室では銅箔が理想的な温度まで加熱される。加熱後の銅箔はベルトコンベアに乗って第2室に移動し、ここでグラフェンを作るための材料であるメタンガス(炭素源)と水素ガスが供給される。第2室に導入された材料ガスは化学的気相成長法(CVD)のプロセスによって銅箔上に島状に堆積しはじめ、次第に島が大きくなって隣の島と合体することで大面積のグラフェンが生成される。

ベルトコンベアによる銅箔の移動速度は毎分5cmとなっている。実験では、装置を最長で約4時間連続稼動させて、10m程度の長さのグラフェンを連続的に生成することに成功している。

表面全体がグラフェンで覆われた銅箔は、炉から出されて、反対のスプールに巻き取られる。成膜終了後はスプールから銅箔を取り外し、必要なサイズの小片に切り出す。こうして作製した銅箔試料を、ポリマーでできたメッシュ状の基板にキャスティングしてから、エッチング処理によって銅箔を除去する。ポリマーメッシュの穴はグラフェンに開いている穴よりも大きく、ポリマーの支持基板上にグラフェンが太鼓の皮のように張られた状態になる。これによってグラフェンが丸まらずに表面の穴が常に開いた状態が維持されるので、ろ過膜として機能させることができる。

ロールtoロール方式で作製したグラフェンろ過膜に、水、塩その他の分子を透過させる実験を行って、フィルタリング性能の評価を行った。その結果、通常の小規模なバッチ方式の成膜法で生成したグラフェンと同等のフィルタリング性能が得られることを実証できたとする。また、ろ過処理によってグラフェンが劣化するといった問題もなく、耐性の確認もできたとする。

研究チームは、プロセスの処理速度や材料ガスの配合比率を変えたときのグラフェンの膜質についても分析し、これらの相関関係をグラフ化して発表している。このグラフは、他の研究者などが同様の装置でグラフェン成膜を行うときに、欲しい品質のグラフェンを得るためのレシピを特定するために利用することができるという。

今回報告された装置では、ポリマー基板へのキャスティングなど一部の工程は手動で行われている。今後は、すべての作業工程をロールtoロール方式の装置内に組み込むことによって、プロセスの完全自動化を目指すとしている。