生物の進化というのは、すごいものだ。たとえば、毒のある虫や木の葉などに昆虫が自分を似せる「擬態(ぎたい)」。「なにもあれほど精緻に似せなくても……」と思うほど、そっくりの姿に進化している。そして、雄殺しの細菌に集団感染しているクサカゲロウも、5年を待たずに、その細菌を無力化するように進化していたことが確認されたのだという。

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    写真 カオマダラクサカゲロウの雌。(林さん提供)

このクサカゲロウの進化を見つけたのは、琉球大学の林正幸(はやし まさゆき)日本学術振興会特別研究員らの研究グループだ。カオマダラクサカゲロウという昆虫は、その多くに「雄殺し」の細菌が感染している。そのため、雄は生まれてもすぐに死んでしまう。この細菌は雌から子に伝染していくので、細菌が勢力を広げるためには雄は不要だ。むしろ雄カゲロウはできるだけ少ないほうが、雌のえさも増えて有利だ。

林さんらが2011年に千葉県松戸市にある千葉大学松戸キャンパスでカオマダラクサカゲロウを採集したところ、雌が57匹だったのに対し雄は7匹で、雄はわずかに11%。圧倒的に雌が多かった。捕獲した雌に卵を産ませ、成虫にまで育った子の雌雄の割合をみると、観察した25匹の雌親のうち21匹からは、雌しか育たなかった。ところが、雌を抗生物質で除菌すると、雄も育った。つまり、この雌雄のアンバランスは、たしかに「雄殺し」細菌のせいだったのだ。

林さんらは、それから5年後の2016年に、また同じキャンパスでカオマダラクサカゲロウを採集した。すると、捕獲した129匹のうち雄は49匹で、全体の38%。雄の割合はこの5年のうちに大幅に増えていた。それは、なぜか。クサカゲロウが「雄殺し」の細菌に対する抵抗力を獲得したのか。あるいは、この5年のうちに細菌が弱くなったのか。そこで、2016年に捕獲した雌に、2011年に捕まえてから実験室で飼育してきた雄を交配させたところ、その子孫に雄はほとんど育たなかった。つまり、2016年の時点でも細菌は雄殺しの能力を保っていたが、クサカゲロウの側が、細菌に対する抵抗力を集団として遺伝的に身につけたという結果だ。

この結果について林さんは、「2011年の時点でも、細菌に感染した雌から雌雄が半々で生まれたケースが、ごく少数だがあった。ということは、このときすでに、細菌に抵抗力をもったクサカゲロウはいたのかもしれない。これが、2016年にはかなり広まっていたのではないか」と説明する。

生存をかけたこのような細菌と昆虫の戦いは、自然界のあちこちで繰り広げられているのかもしれないが、時を隔てた二つの時点で、昆虫が劣勢を挽回したことがきちんと確認されたのは、これが2例目。過去には、サモア諸島のリュウキュウムラサキというチョウで確かめられただけだという。こうした研究が、進化という生命現象の激しさと神秘を目の当たりにさせてくれる。

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