京都大学(京大)は、同大らの研究グループが、キウイフルーツなどマタタビ属に分類される植物群の性別決定遺伝子を特定し、植物の性別獲得におけるゲノム進化の特異性を明らかにしたことを発表した。

この成果は、京大農学研究科の赤木剛士助教、同・田尾龍太郎教授、香川大学農学部の片岡郁雄教授らの共同研究グループによるもので、科学雑誌「The Plant Cell」に4月6日付けで掲載された。

  • キウイフルーツの性別決定遺伝子 Shy Girl の成立過程(出所:京大ニュースリリース※PDF)

    キウイフルーツの性別決定遺伝子 Shy Girl の成立過程(出所:京大ニュースリリース※PDF)

オスとメスの「性別」は、生物が進化の中で獲得した多様性の維持に最も重要な仕組みのひとつである。動物は性別があることが当然だと考えられている一方で、植物では明確な「性別」を持つものは少数派である。

しかし、植物における性別決定の仕組みは多様で、分類上のグループごとに別々の進化過程をたどって成立したと考えられている。この仕組みをつかさどる植物の「性別決定遺伝子」は、これまでわずか2種のみでしか特定されておらず、なぜ植物では独立した性別の成立が頻繁に起こりえるのか、その仕組みや進化における多様性・一般性については謎に包まれていた。

今回、研究グループは、マタタビ属に分類されるキウイフルーツ野生種であるシマサルナシと栽培キウイフルーツを掛け合わせたもの(種間交雑による系統群)、およびマタタビ属の多様な野生種群を解析対象として、それら植物のオス・メス間のゲノム配列を比較することで、オスに特異的なY染色体の性別決定遺伝子領域の特定を試みた。

先の研究で開発した大量DNA情報解析アルゴリズムを活用し、マタタビ属のY染色体におけるオス特異的ゲノム領域を網羅的に解析した結果、Y染色体上に雌しべの発達を抑え込む遺伝子が存在し、それが性別決定を担う最上流因子のひとつであることを解明して「Shy Girl」と名付けた。この遺伝子は、マタタビ属の進化のある時期に起こった全ゲノム重複によって生まれた遺伝子であることがわかった。このことから、マタタビ属の起源において、ゲノム重複をきっかけとして遺伝子発現パターンを変化させる進化により、元々は持っていなかった性別決定という新しい機能が獲得・強化された可能性が示唆された。

さらに、これまでカキ(カキ属)で得られていた知見と比較したところ、キウイフルーツなどマタタビ属で見いだされた全ゲノム重複による性別決定遺伝子の成立が、カキ属にも共通して見られる現象であることが分かった。このように植物の進化に特有の「頻繁に起こった全ゲノム重複」が、植物の進化としては非常に短期間のうちに植物における性別の成立を駆動している可能性が示唆された。

  • 人工サイトカイニンの処理による雄花から半雌花の誘導(出所:京大ニュースリリース※PDF)

    人工サイトカイニンの処理による雄花から半雌花の誘導(出所:京大ニュースリリース※PDF)

また、Shy Girl 遺伝子の機能解析により、植物ホルモンの 1 つであるサイトカイニンがキウイフルーツの雌しべの形成に大きく関与していることが示された。この知見を応用し、人工サイトカイニンの処理によって雄花の半メス化を誘導することにも成功した。それらのことから、性別決定に関わるShy Girl遺伝子が、サイトカイニンを介してオスとメスの生理作用の差異に導くメカニズムが明らかとなった。

将来、研究グループはこれらの知見をもとに、外的環境の改変や人為的処理による植物の性別制御について検討を行っていく予定だという。また、今回発見されたShy Girl遺伝子に加え、マタタビ属には少なくとももうひとつ雄しべの生育に関与する遺伝子がY染色体上にあると仮定されており、今後はその特定や進化過程の解明を目指すことで、これまで見えていなかった「バラバラな植物の性別獲得」の中に、意外な共通の法則が見えてくると期待されるとしている。