トヨタ子会社の日野自動車とフォルクスワーゲン(VW)商用車部門のVWトラック&バスが提携に向かう。トヨタとVWは自動車販売で覇権を競う間柄であるだけに、この話には少し違和感を覚えた人がいたかもしれない。しかし両社には、提携への布石ともいうべき過去がある。

  • 日野自動車の下義生社長とVWトラックバスのアンドレアス・レンシュラーCEO

    戦略的協力関係の構築に向けた合意書に調印し、共同記者会見に臨んだ日野自動車の下義生社長とVWトラック&バスのアンドレアス・レンシュラーCEO

トヨタ子会社とVWの商用車部門が手を組む理由

日野自動車と独フォルクスワーゲン(VW)の商用車部門を統括するVWトラック&バスは4月12日、継続性のある戦略的協力関係の構築に向けた合意書に調印し、両社トップによる記者会見を行った。

日野とVWトラック&バスは今後、「物流/交通ソリューションの研究」「既存および将来技術」「調達、販売/サービス」と幅広い領域で具体的な協業の検討を開始することになった。

いうまでもなく、日野はトヨタ自動車の子会社であり、トヨタグループの商用車メーカーという位置づけにある。一方、VWトラック&バスは2015年にVWグループの商用車メーカーである独MAN、スウェーデンのスカニア、VW南米の統括会社として再編された企業だ。VWは今回、社長交代とともにグループの事業組織を4つに分割。その中で、商用車事業を担うことになったのがVWトラック&バスだ。

それでは、なぜトヨタ子会社の日野とVWの商用車事業を担うVWトラック&バスが手を握るのか。トヨタとVWは世界覇権を競うライバルなのに、という疑問が起きるのは当然だろう。

  • 日野自動車「プロフィア」

    トヨタ子会社の日野自動車は、なぜVWの商用車部門と手を結ぶのか(画像は日野自動車の「プロフィア」)

技術革新への対応を迫られる商用車

確かにトヨタとVWは、20世紀に世界の自動車産業をリードしてきた米国のGM、フォード、クライスラーに取って代わり、世界覇権を競っている。2008年にトヨタが世界販売首位の座を奪還すれば、ここ2年はVWがトヨタを抜いて世界1位を確保している。

しかし、ここへきて自動車業界は“100年に一度の大変革期”を迎え、乗用車とは異なる要素が求められる商用車の分野でも、大変革の波に対応していく必要に迫られる事態となっていた。VWとの提携が明らかになる前に筆者は、日野自動車の下義生社長にインタビューしているが、その際にも「外部環境の急激な変化、輸送価値の多様化にしっかりと対応していくことこそ、生き残りへの持続的成長につながる」ことを強調していた。

日本のトラックメーカーは日野、いすゞ自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックスの「大型4社」だが、三菱ふそうは独ダイムラーの100%子会社であり、UDトラックスはボルボトラック(スウェーデン)の100%子会社という状況だ。

今回、日野がVWトラック&バスとの提携を決めたのは、トヨタとしても商用車事業の方向を日野に託したということであり、世界市場での競争と協調を進めていく方針に沿った動きでもあるのだろう。