3月28日、イギリスの教育専門誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)」を発刊するTES Globalが、国内総合パートナーであるベネッセの協力のもと、第2回となる「THE世界大学ランキング 日本版2018」を発表した。本稿では、ランキングの公表に先駆けて行われた記者発表会の模様をお伝えしたい。

教育力が重視された「THE世界大学ランキング 日本版2018」

THEが2004年から公表している「THE世界大学ランキング」は、評価軸を「研究力」に置いて評価を行ってきた。なぜ研究力を軸としていたかというと、国や地域、文化や経済によって観点が異なる大学の評価において、論文引用回数などはある程度統一した基準として機能するからだ。この指標をもとに行われた「THE世界大学ランキング」で100位以内に入った日本の大学は、東京大学、京都大学の2校となっている。

TES Globalのコマーシャル・ディレクターであるニック・ピログ氏は、「THE世界大学ランキング」の概要と意義について説明する。同ランキングは、ランキングに参加しデータを提供する81か国/1,102大学による順位であり、世界12億人に届けられるもの。そのうえで「多くの学生が海外留学を考えています。その数は今後も増えていくでしょう。この傾向をどのように捉え、受けて入れていくのかが今後重要となっていくでしょう」と語った。

  • TES Globalのコマーシャル・ディレクターであるニック・ピログ氏

しかし、大学は研究機関であると同時に、教育機関でもある。TES Globalのデータ・解析ディレクターであるダンカン・ロス氏は、「日本の大学制度は教育という観点において力があるにも関わらず、ランキングには反映されていませんでした」と述べる。「THE世界大学ランキング 日本版2018」のような各国版のランキングは、そのような「教育力」に焦点を当てたもので、学生により良い教育を与えている大学の評価を重視したものだという。

  • TES Globalでデータ・解析ディレクターを務めるダンカン・ロス氏

「THE世界大学ランキング 日本版2018」のランキング指標は、「教育リソース」「教育充実度」「教育成果」「国際性」の4つの指標で構成されている。このうち、第2回で大きな変更があった指標は「国際性」だ。

この指標では、国外への留学、海外留学生の受け入れ、外国語による授業などが高く評価される。「国際性」には新たに評価比率それぞれ5%で「日本人学生の留学比率」「外国語で行われている講座の比率」項目が追加され、全体における国際性の評価比率は前回の16%から第2回では20%に増加となった。その分、「教育リソース」からは大学規模に左右されやすい「学生一人当たりの資金」「競争的資金獲得数」が2%ずつ減少し、評価比率は前回の38%から今回は34%に減少している。

日本版で大きく順位を上げる大学も多数

「THE世界大学ランキング 日本版2018」総合順位においては、京都大学と東京大学の2校が同率1位。続いて3位に東北大学、4位に東京工業大学、5位に九州大学がランクインしている。私立大学の最高順位は慶應義塾大学の10位で、次いで11位に早稲田大学が入った。公立大学の最高順位は秋田の国際教養大学の12位となっており、今回の指標の特徴をわかりやすく表しているといえるだろう。

  • 「THE世界大学ランキング 日本版2018」の詳細について説明する、ベネッセコーポレーション 学校カンパニー 大学・社会人事業本部 本部長 藤井雅徳氏

ランキング指標を分野別に見て行くと、「教育リソース」では医科大学が強く、3位までは総合順位と同じだが、4位に東京医科歯科大学、5位に浜松医科大学がランクインしている。この項目は、学生1人あたりの資金や教員比率、教員の論文数や大学合格者の学力などだ。

「教育充実度」は、東京大学、京都大学を抑えて国際教養大学が1位。また慶應義塾大学や早稲田大学、国際基督教大学(ICU)などが国立大学と並び上位にランクインする。この項目は高校の先生方の評判が大きなウェイトを占めている。

「教育成果」も総合順位と同じ傾向で、東京大学、京都大学が1~2位を占めるが、慶應義塾大学が高い評価を得ており、3位にランクイン。この項目は、企業の人事担当者や研究成果が重視されている。

「国際性」は、他の指標とは大きく異なる傾向を見せる。1位は国際教養大学、2位に立命館アジア太平洋大学、3位に国際基督教大学(ICU)が並んでおり、そのあとに東京外国語大学、上智大学、京都外国語大学、名古屋商科大学などが続く。この項目では、前述のとおり外国人学生や教員の比率や留学比率、外国語講座比率が重視され、留学日数も長いほど高い評価を受ける。

ランキングについて解説したベネッセコーポレーションの藤井雅徳氏は、ランキングを分析したうえで「国立大学の課題は、豊富な教育リソースをうまく活用できていないこと。そして県外の高校生に取り組みを伝えられていないこと。しかし世界ランキングでは論文の引用などで高く評価されています。逆に私立大学は、研究のリソースが足りておらず、また資金の調達という観点でも課題があります。特に社会科学系の比率が高い大学はその傾向が強いでしょう」と語った。

他の地域や社会への影響度ランキングも予定

「THE世界大学ランキング 日本版2018」のような地域別ランキングは、教育に焦点を当てるために作成されたものだ。日本の他にはアメリカですでに実施されているが、ダンカン・ロス氏によれば、夏以降を目安に西ヨーロッパの大学ランキングも予定しているそうだ。また、今後は「大学の社会への影響度」に焦点を当てたランキングを作ることも計画しているという。グローバル化が進むなか、大学選びもより海外に目を向けなくてはならない時代になっている。「THE世界大学ランキング」は、そのような情勢を見据え、日本や海外の学生にとり、大学のベンチマークとして機能することを目指している。

  • 質疑応答では京都大学と東京大学が同率1位となった理由などが質問され、京都大学は国際性の面で健闘しており、それが評価の向上につながったと述べた