子どもには、どんな困難も乗り越えられる人に育ってほしいのが親心。人見知りで新しい友達やクラスになかなか馴染めなかったり、自分の意見をはっきり言えなかったり、ここぞという場面でプレッシャーに負けて力を発揮できなかったり……「気が弱い子」だと今後の人生も苦労しそうで、親としては少し気がかかりだ。

  • 子どもの気の弱さは、親としては心配になってしまうもの

「その子の個性」と受け止めて、そのままにしておいてもいいものか。気の弱さを少しでも克服できるよう、親ができることはあるのだろうか。メンタルトレーナーの森川陽太郎さんにお話をうかがった。

「気が弱い子」は、評価基準が自分の中にない

気の強さ・弱さを決めるのは「物事の評価基準が自分の中にあるかどうか」だという。「気が弱い子は、自分の評価基準で物事に取り組めず、何でも親や周囲の顔色をうかがってしまいがちです。そうなるのは、親の接し方が大きく影響しているのでは?」と森川さんは指摘する。

その子に合った目標設定で成功体験を積ませる

私たち大人は、無意識に世の中の基準で子どもを評価してしまいがち。「ここまでできれば」と親が思う"OKライン(今ここまでクリアできればOKという目標設定)"は、子どもにとっては高めのハードルであることが多い。高い基準を押しつけられた子どもは、「周りと比べてできない自分」に自信を失くし、苦手意識をもってしまう。

例えば、縄跳びをまだ5回しか跳べない子に、いきなり「100回跳べるようになろう」というのは難しい。まずは「7回跳べるようにがんばってみよう!」というところに“OKライン”を設定し、そこをクリアできたら、次は10回、20回、50回……とその子のレベルに合わせて徐々に目標を上げていこう。

少しずつ「クリアできた!」という成功体験を積むことが、子どもの自信につながる。自信のついた子は、自然と周りの目を気にすることはなくなるという。

「得意なことの"OKライン"は意外と低かったりする。どんどんクリアできるからやる気も出ます。逆に苦手なことほど、つい他人と比べてしまって"OKライン"が高くなっているんです」と森川さん。子どもが苦手意識を持っているものについては特に慎重に、その子に合った"OKライン"を見極めて提示してあげたい。

「気が弱い」は悪いこと?

そもそも「気が弱いこと」「周囲の目を気にすること」は、必ずしも克服するべきことなのだろうか? 一見、ウイークポイントにも見える気の弱さも、「実はその子にとってのストロングポイントになり得る」と森川さん。

  • 「気が弱い」ことはストロングポイントにもなり得る

「人の顔色をうかがう」=「相手が感じていることを察する能力がある」ということ。「気が弱い子ほど、親の目つきだけで『今、怒っているかも』と察知できたりしますよね。そういう点でコミュニケーション能力に長けている面があると言えるのではないでしょうか」と森川さんは話す。

世の中には、気が弱くても成功している人は少なくない。そういう人の共通点は、「自分は気が弱い」ということを受け入れたうえで、「なら、どうすればいいか」という対策ができていることだという。気が弱い自分を否定せずに、成功体験を積んでいけるようになることが重要なのだ。

「気が弱くても、できる!」という自信を

子どもは感情に飲まれやすい。「自分は気が弱いから」という気持ちや、恐怖、不安、緊張などのマイナス感情に飲まれて、その子が持つ本来の力を発揮できないこともある。森川さんは「『だからダメだ…』ではなく、『気が弱い自分でもできた!』と自信をつけていくことで、物事がうまくいくようになります」と語る。

マイナス感情を否定するのではなく、「そんな気持ちでもできた」という成功体験を重ねれば自信がつく。「緊張したけど、よくできたね」「怖かったけど、がんばったね」と感情とセットで褒めてあげることを忘れないようにしたい。

「無理」「下手」は禁句!

子どもの気が強い・弱いにかかわらず、してはいけないのは、「この子は〇〇だから」「どうせできないから」などと、親が限界を決めてしまうこと。ちょっとした親の一言が、子どもの中に他人基準を作ってしまうという。

もし子どもに「大きくなったらプロサッカー選手になりたい」「東大に行きたい」と言われたら……あなたならどう答えるだろうか。

「才能がないのに何を言ってるの?」「頭悪いから無理」「運動神経が悪い私たちの子どもなのに……」といった否定的な言葉は、子どもの中の自己肯定感や物事に対してアクションを起こそうとする気持ちにブレーキをかける。

「親が言う『下手』『無理』という言葉の大きさは、他人(例えばサッカーチームのコーチ)から言われるよりも1,000倍以上のダメージを与えます。その影響力は、子どもの年齢が小さいほど大きい。一流のスポーツ選手に子どもの頃の話を聞くと、『できるわけない』『無理』『才能ない』などと言われた経験がほとんどないんです」と森川さん。

その子のやる気や才能を生かすも殺すも、親の何気ない言葉次第だということ、胸に刻んでおきたい。

※画像はイメージ

森川陽太郎さん

元サッカー選手。スペインやイタリアでプレーし、ケガにより5度の手術と長期リハビリの末、引退。その後、メンタルトレーニングや心理学を学び、2008年に株式会社リコレクトを設立。「OKライン メンタルトレーニング」を確立し、ビジネスパーソン、アスリートから子どもまで、延べ1万人以上を指導している。『本番に強い子の育て方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。