東京モーターショーで初公開され、続いて開催された名古屋モーターショー・大阪モーターショーでも注目を集めた「クラウン コンセプト」。一段と若返った姿に驚いた人も多いが、このスタイリングには思いのほか、複雑な事情が隠されているようだ。

  • トヨタ「クラウン コンセプト」(名古屋モーターショーにて撮影)

「クラウン」は60年以上にわたってトヨタのトップモデルであり続ける看板モデルだが、それゆえに現在の立場は複雑かつ微妙だ。歴史的な名キャッチコピー「いつかはクラウン」という価値観に則って考えるなら、レクサスブランドが誕生した時点で「クラウン」の存在意義はなくなったことになる。

しかし、だからといって「クラウンは廃止します。トヨタの高級車をお求めの方はレクサスへ」というわけにはいかない。「クラウン」には、「クラウン」から「クラウン」へと乗り継ぐ固定客が数多くいるのだ。「いつかはクラウン」から「いつまでもクラウン」へ。それが「クラウン」の現状といえるかもしれない。

それならば、その役割こそ天命と考え、「クラウン」を愛する人のために正常進化を続けていく……という割り切った選択は、十分に「アリ」だろう。というより、2012年に"リボーン"するまでの「クラウン」は、まさにその選択を続けてきた。

では、なぜ「クラウン」は5年前に"リボーン"し、そして今また「クラウン コンセプト」で変身を遂げようとしているのか。その理由は、意外にも「クラウン」オーナーの年齢にあるらしい。なんとなく高そうなイメージはあるが、それでも実際の数字を聞けば驚く。名古屋モーターショーでトヨタスタッフに教えてもらったところによると、その平均年齢は60歳を超えているというのだ。

いまどきの60歳はまだまだ若い。とはいえ、数年後にまた「クラウン」を買ってくれるか、その前に免許証を返納するのではないか、ということになってくる。つまり「クラウン」が現在の固定客とともに歩いていけば、年を追うごとに販売がダウンしていくことになるのだ。それを防ぐには、若い新規ユーザーを獲得するしかない。

だからこその若返りなのだが、だからといって従来の固定客を失望させるようなモデルチェンジは許されない。固定客が求めるのは、「クラウン」が「クラウン」であり続けること。まさに、あちら立てればこちらが立たず。しかし、セダンの市場そのものもが縮小しているいま、どうしても両方を立てなければ「クラウン」の未来はない。

このようなわけで、「クラウン」は変わらないままで、なおかつ変わっていくことが求められる。非常に難しいが、この難題に挑み、そして形にしたのが「クラウン コンセプト」だったといえる。

「国内専用」というレクサスにない強み

若い年齢層(といっても、ここでは40代くらいを指すのだが)に「クラウン」の新規客を獲得するということは、他車からの乗換えをしてもらうことだ。当然、ライバルに対する差別化が重要になる。最大のライバルは、やはりレクサスということになるだろう。

「クラウン」とレクサスブランドの差別化。これも「クラウン」が抱える難題のひとつだ。「クラウン コンセプト」は走りとコネクティビティを特徴としているが、これは若返りのために打ち出された策であって、レクサスとの差別化にはならない。

しかし、「クラウン」がレクサスに対して差別化できる強みはちゃんとある。それは「クラウン」が日本市場に特化した国内専用モデルとして開発されていること。それが顕著に現れているのが車幅で、「クラウン コンセプト」の全幅は1,800mmと、現行モデルから据え置かれている。ちなみに、レクサスのフラッグシップである「LS」は全幅1,900mm。コンパクトな印象の「IS」でも1,810ミリある。さらに言えば、トヨタのラインアップで「クラウン」の下である「カムリ」は、輸出先の米国市場を意識しているため、全幅が1,840mmもある。「クラウン」のほうが細身なのだ。

この数値を確認してからもう一度「クラウン コンセプト」を眺めると、よくぞ細長い印象を抱かせず、どっしりした安定感を演出しているものだと感心する。室内の広さも同様で、このあたりは制約の中で最高のものを作るトヨタの上手さが出ている。

「クラウン コンセプト」はほとんどこのままで来年夏には発売されるという。手堅く売れるであろうことは想像に難くないが、注目されるのは販売台数よりも購入者の年齢層ということになるかもしれない。

  • トヨタ「クラウン コンセプト」外観