科学技術振興機構(JST)と東京大学は、JST戦略的創造研究推進事業において、東京大学大学院工学系研究科の高木信一教授らが、極めて小さな電圧制御で動作が可能な量子トンネル電界効果トランジスターを開発したことを発表した。この成果は12月3日、国際会議International Electron Devices Meeting(IEDM)で発行される「Technical Digest」に掲載された。

  • この研究で提案する酸化物半導体/IV族半導体接合トンネルFETの素子構造と、オフ状態およびオン状態におけるエネルギーバンド図(出所:JSTニュースリリース)

    この研究で提案する酸化物半導体/IV族半導体接合トンネルFETの素子構造と、オフ状態およびオン状態におけるエネルギーバンド図(出所:JSTニュースリリース)

IoTの発展にともない、クラウドサーバーやモバイル端末の低消費電力化の重要性が近年より一層求められている。電界効果トランジスタ(FET)は、プロセッサーやメモリーの基本構成素子としてあらゆる機器内で使用されており、その低消費電力化が課題となっている。

低消費電力化には、FETのオン状態とオフ状態を小さな電圧差で達成することが重要だが、従来のMOS型電界トランジスター(MOSFET)では、動作電圧の低減は原理的に限界を迎えている。そのため、従来とは異なる動作原理として量子トンネル効果を用いた電界効果トランジスター(トンネルFET)が、新たな素子として期待されているが、トンネルFETではオン状態とオフ状態とで十分大きな電流比をとることが難しいなど、本質的な課題が数多く残っている。

このたび研究グループは、従来の大規模集積回路(LSI)に用いられるSi(シリコン)やGe(ゲルマニウム)と、主にディスプレイなどに使用される酸化物半導体とを組み合わせたトンネル電界効果トランジスターを実現した。既に十分実用化レベルにある材料にも関わらず、これらの異なる材料系を組み合わせた研究はこれまでなく、現在の半導体製造工程の活用と早期の実用化を視野に入れた新しい発想であるという。

素子構造の最適化と材料の組み合わせにより量子トンネル効果を効率よく引き起こすことで、ゲート電圧のわずかな変化で極めて大きな電流変化を実現し、素子のオン状態とオフ状態との電流比を世界最高値にまで引き上げることに成功した。

このトランジスターは、従来の半分以下の低い電圧で動作可能なうえ、待機時の消費電力が極めて小さいため、さまざまなモバイル端末の省電力化や環境発電と融合したバッテリー不要な集積回路の実現など、新たな応用展開が期待される。