思わず旅がしたくなる
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「実はあまり旅してるなって意識がないんです」-「奇界遺産」フォトグラファーの佐藤健寿氏が語る"旅"とは

旅好きであれば一度はその名を聞いたことがあるだろう。

佐藤健寿。

世界中を飛び回り、各地の"奇妙なもの"を撮影し続けるフォトグラファーである。ベストセラーとなった写真集「奇界遺産」シリーズやTBS「クレイジージャーニー」などへの出演でも知られている。

今回、そんな佐藤氏に「旅」についての話を伺った。これまで数多くの地域を回ってきた氏が語る旅の魅力とは何だろうか。

来週からまた旅に出られるとお聞きしました。一年のうち、どれくらい旅に出られているのですか?

1年のうち、2~3カ月間くらいは海外に出ていますね。国内撮影も入れたら、実質、自宅にいる期間は半年くらいしかないかも。でも最近は東京での仕事もあるから、昔みたいに長期で旅に出ることは少なくなってきて、1週間~10日くらいで帰ってくることが増えましたね。

世界中の"奇妙なもの"を長年撮影されていますが、もともとはアメリカにあるエリア51を訪れたのがきっかけだとか。

そうなんです。アメリカの大学で写真を勉強しているときに、「子どもの頃に好きだったものを見に行こう」って思い、エリア51を訪れたのが最初でした。翌年、南米にナスカの地上絵なんかも撮りに行って。そうこうしているうちに旅行雑誌からも仕事の声がかかるようになって、色々な場所に行くようになりました。

子どもの頃から"奇妙なもの"がお好きだったのですね。

もともと子どもの頃にインディ・ジョーンズに憧れていて、最初は考古学者になりたいと思いました。でも大人になって改めて調べてみると、実際の考古学者はあんなインディ・ジョーンズみたいに冒険ってしなそうだし、ちょっと違うのかなと。結局、今やっていることが、わりと自分の夢に近いことなのかなとも思います。

今回のインタビューテーマは「旅」なのですが、旅は手段であり目的だと思うんです。「そこに行きたい」から向かう旅と、過程そのものを楽しむ旅。佐藤さんにとってはどちらが旅ですか?

僕の場合は旅することそのものが目的になったことって一度もないんです。常に行きたい場所、ゴールがあって、旅はそこに行くための手段でしかない。だから、実はあまり自分としては旅してるなって意識がないんですよね。

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そういう意味では出張感覚?

そうですね(笑)。

そんな佐藤さんにとっての旅の楽しみって何でしょう?

やっぱり実際に(興味のある場所へ)行って、見て、感じるってことですね。今はインターネットもあるし、テレビだったり雑誌だったりで、世界中の写真を見ることができるわけじゃないですか。だけど、それは編集された情報で、そこへ至るまでの過程とか周辺の情報が抜けている。ちょうど要約されたニュースを読むのと同じです。でも自分で実際に行ってみると、いろいろと腑に落ちることがあるんです。

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なるほど。たとえば、どういったところでそういったことを感じたのでしょうか?

有名な例でいうと、ピラミッド。あれって、実はわりと町が近くて、すぐそばにケンタッキーのお店があるんですよ(笑)。だけど、現代でさえ割とみんな砂漠の真ん中にあると思ってますよね。なんでそうなっているかというと、日本からはるばるエジプトまで行って友だちに(ピラミッドの)写真を見せるとき、「実は町中にあった」なんて言いたくないじゃないですか。みんなはるばる砂漠を旅したイメージを見せたいと思う。だから無意識に町の景色が写らないように撮るんですよ。

それをInstagramとかFacebookにアップすると、それを見た人がまた「いいな」って思ってピラミッドを見に行く。で、実際に行くと「案外町中にあるんだな」って気づくんだけど、最初の人と同じ理由でまた同じ角度で写真を撮って……。と、結局、編集された情報がその場所の「景色」になってしまうんですよね。

あとは旅をするといくらか「楽になる」ような気はします。僕は昔、ニューヨークに住んでいたんですが、夜中に何か食べたいと思っても選択肢がないんですね。日本だったら24時間のお店とか、コンビニとか、ラーメン屋とかかなりバリエーションがある。

実際、日本はすごくいい国なんですよ。だけど、一方でわりと充足しちゃうんですよね。引きこもりっていうと家の中ってイメージがあるけど、もう少し範囲を広げてみると、東京に引きこもっていたり、日本に引きこもっていたりしているともいえると思っていて。日本って、国全体がコンビニなんじゃないかって思うくらい便利だし安全。緊張感なんてなくても生きていられるじゃないですか。

だけど、それがたまに息苦しくなったりすると思うんです。そういうとき、ふと海外だったり全然違う常識の場所に行ってみると、自分の見ていたものがすごく狭い世界だったんだなと気づいて、逆に心に余裕ができるというか。目の前の世界がすべてではないという当たり前のことを知るだけでも、旅する意味はあるのかなとは思います。

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何となくわかります。同じ範囲で日々生きていると、知らず知らず視野は狭くなりますよね。よく旅をすると人生観や価値観が変わるなんていいますが、佐藤さんはいかがですか?

僕はそんなに変わらなかったと思いますね。20代で旅を始めた頃はもちろん、色々とカルチャーショックを受けたりすることもあったんですが、それもずっとやっていると慣れてくるし、それぞれ違う文化だなと思うようになるんです。

ある国で奇妙だなと思うものがあっても、その国の人にとってはそれが普通だったりして。つまり価値観は相対的なものだという当たり前のことに気づくんですよね。そう思ってからは世界はひたすら多様なだけであって、奇妙なものっていうのは実はないんじゃないかなって思います。

なるほど。そんな流れでする質問ではないかもしれませんが、これまで旅した中で印象的だった場所や、旅をするのにおすすめの場所はありますか?

よく聞かれるのですが、選べないんですよね。ただ、一つ見ておいた方がいいとすれば、ヒマラヤだと思います。やっぱり、あの壮大さは行って見ないとわからない。人間のちっぽけさを知ることができます。

それから、カザフスタンのバイコヌール基地。ここはロケットの発射基地があるんですが、発射台の1.5kmまで近づいて見学できるんですよ。世界で一番近くで打ち上げが見られる場所なんです。

ロケットが打ち上がるってすごいですよ。音の凄さ、風圧、巨大な塊が上がっていく迫力は行って体験しないとわかりません。ロケットの打ち上げは人間がやってる一番奇妙なことの一つなのかなとも思います。

奇界遺産でいうと何かありますか?

行きやすいところだと台湾の彩虹眷村。ここはある村が取り壊されることが決まったときに、おじいさんが「そういうことなら好き勝手に色を塗ってやろう」と村中をサイケデリックな色で塗り始めたんです。それが話題になってたくさんの人が集まるようになって、最終的には取り壊しもなくなったという場所です。僕が行った7~8年前はまだそうでもなかったけど、今は観光客が増えましたね。

タイも行きやすいのでおすすめです。タイは敬虔な仏教の国なんですが、お寺ごとの競争が激しくて、差別化するために地獄をモチーフにしたとてつもなくユニークな像を置いていたりするんです。地方のお寺巡りも面白いと思いますよ。

どちらも気になります。ところで佐藤さんはほぼお一人で旅をされているのだと思いますが、一人旅のメリットは感じられますか?

うーん、一人がいいってわけじゃないんですよ。ただ、この歳になってくると、「来週からベトナム行こうよ」て誘ってもなかなか行ける人がいないというだけで(笑)。正直、二人以上の方がトイレ行きたいときとか荷物見ていてもらえるし、楽ですよ。

それでもあえていうなら、すべて自分で決められるということや、現地で他の人と仲良くなりやすいってことがありますね。

一人旅は強制的に一人になりますから、それは面白い経験になると思います。さっき、旅することで心に余裕ができるって言いましたけど、一人旅はまさにそれで。固定された環境で生きているとそれが世界のすべてみたいに思えてくるんですが、ちょっと一人旅するだけで、全然違う世界が見えてくる。慣れ親しんだものすべてからあえて離れてみることで、はじめて気づくことは色々あると思います。だから普段、一人でいるのが苦手な人ほど、一人旅をおすすめしたいですね。

最後に、佐藤さん流の旅の楽しみ方を教えていただけますか。

自分なりの旅を考えるといいと思いますね。ガイドブック通りにめぐるのが旅行だと思っている人はまだ多いですけど、そうじゃなくて、たとえばサッカーが好きなら毎日スタジアムに通うとか、料理が好きなら食材屋さんをひたすら回るとか、何をしたいのか目的によって旅を考えるのがいいと思います。

そういう旅をしている人って幸せそうなんですよ。僕の知人に、他の国には目もくれず、バリにずっと通っている人がいて、何をするかっていうと釣りをしているだけなんです(笑)。そういうふうにテーマを持って旅をすると面白いと思いますよ。

ありがとうございました。

JAPAN AIRLINES

ガイドブックをなぞるのではなく、自分なりにテーマを持って旅をする。そんな佐藤さんの言葉にハッとさせられた人も多いのではないだろうか。もっとも、長期休暇を気軽にとれる人ばかりではないだろうから、たとえば転職のときなどにまとまった休みをとって旅をすることをおすすめしたい。

ジャルパックでは、そうした"転職旅行"にぴったりのプランを色々と用意している。転職タイミングでは、佐藤氏のように"ひとり旅"になることが想定される。そういう方のため、ジャルパックでは「ジャルパックで行く 海外ひとり旅行」という特集を組んでいる。ここでは、添乗員がつくツアーから、出発の5日前まで予約が可能であったり、ひとりだと面倒になりがちな予約をすべて"おまかせ"できるプランなどを展開している。

これらのプランをうまく活用し、是非"心に余裕が生まれる旅"を楽しんでみてほしい。